(君はいつか見た同じ動作をしているのに口から出るのは違う言葉なんだ。)

(僕はいつかの君を今の君に重ねて見てしまう。)

(今と前が違うってわかってるんだ。)

(わかってるけれど、何故か胸が痛くなる。)

(あんなに前は名前を呼ぶのをためらいながら口に出してたのに。)

(今じゃ名前を呼べないのがもどかしくなっている。)


「ねえ、な、渚くん。」


彼女の事を考えていたら彼女の声が聞こえた。
閉じていた目を開けて名前の揺れる瞳を見る。

話を聞いてみるとなんでもパーティーを開く、との事だったから了承の返事をしたにもかかわらず彼女は不思議そうな顔をした。
僕が断ると思っていたのかなァ。


「じゃあ楽しみにしてる。」

「……!うん!」


まるで不安なものが無くなったかのような顔で返事をするものだからちょっと面食らってしまった。
なんで?もしかして断られたらどうしようとでも思っていたのだろうか。
少しだけ嬉しくなって今なら名前で呼べるかもしれない、と口を開こうとしたら教室中に警告音が鳴り響く。

僕の携帯にも使徒が来たと出撃の連絡が来ている。

彼女とこういう時に離れるのは危険だと思ったけれど命令を無視することはできない。
それに早く出撃して被害を抑えれば問題ないはずだ、とエヴァに乗り込み使徒の前に立ちはだかるようにその場に立つ。


「渚カヲル、迎撃します。」


…………そして使徒との死闘が終わったあとに僕はすぐに病院にかけつけた。


「ドジ。」

「か、返す言葉もございません。」


病室のベッドに足をぐるりと包帯を巻きつけられた名前が座っていた。
弐号機を僕が使っていたためセカンドはクラスメイトをシェルターに誘導後シェルターの近くからネルフ本部へと移動、との事で名前達と一緒に避難していたのだけれど、
そのセカンドから「名前が病院にいる」とメールが来ていて、
それを確認できたのはプラグスーツを脱いで制服に着替えている時だった。

病院の場所を記入してあったのでセカンドに返事も返さずに書いてある病室へ向かい、急いでドアをあけるとそこにはこちらをポカンとした顔で見ているセカンドと名前がいた。


「アンタがあんな顔するなんて……、初めてみたわよ。」

「……僕どんな顔してたかわかんない。それに友達が怪我したって聞いたら普通そうなるんじゃない?」

「ふーん?へー?友達ねえ?ま、アンタも来たことだし、アタシは本部の方に行ってくるわ。なんでアタシが待機だったのかミサトに抗議してくるから。」

「あ、アスカちゃん、ありがとね!」

「別にー。市民を守るのがエリートパイロットの努めだからねー。」


セカンドが立ち上がりドアへと向かう。
僕は先程までセカンドが座っていた椅子に座る。
……名前の足を見てみるとなんとも痛々しい感じになっていた。


「で、でもたかだか転んだだけでベッドなんて大げさだよねえ……。」

「たかだか転んだだけで君はこんなに長い擦り傷をつけるの?」


すっと包帯が巻いてある部分を撫でるとビクリと足が動いた。
痛かったのだろうかと名前の顔を見たら彼女は顔を真っ赤にしたまま俯いている。
何でそんな顔をしているのかわからず顔を覗き込む。さっと顔を背けられる。

…………。


「な、渚くん!」

「何さ!」

「も!もう!恥ずかしいよ!!!」

顔を覗き込もうとすると逃げられ、それを追いかけようとしてまた逃げられを数回繰り返すと名前は声をあげた。


「恥ずかしい?なんでさ。」

「だ、だって、渚くんが足を触るから。」

「痛いじゃなくて?」

「恥ずかしい。」

「そ。」


なんだか恥ずかしい、と言われて少しだけ嬉しくなった。この感情は何なのだろう。
ああ、でもまた君を失うことにならずに良かった。


「でも渚くんって『ドジ』とか言うんだね。初めて知った。」

「言うよ。よくシンジくんに口が悪いって言われるし。」

「でも私には初めてだよ?」

「そだっけ?」


記憶をたどっても……、確かに。彼女どころか前の君にも言ったことなかったかも。
ただの怪我だけ、と聞いて心配してたのが落ち着いて、安心したと同時に言ってしまったんだ。


「ねえ、渚くん。」

「何?」

「……その、心配してくれてありがとう。」

「……別に。どういたしまして。」


無事だったから、ね。




05(渚視点)
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