距離の詰め方……それは多分もっと話すことなんだろうな、と思った私は一つの結論に達していた。

――……そう、それは。


「渚くん!」

「何?」


昼休み、いつもふらりと何処かへ行く彼を引き止めてみた。
ポケットに手を突っ込んだままでこちらを振り返ってくる。

でもここでは少しばかり危ないかもしれないと思い場所を移動することを伝えると彼は素直についてきた。
……知り合いだから素直についてきたんだろうけれど……、渚くん、人に少し警戒心を持ったほうがいいよ?


「それで、どうしたの?こんな人気のないところに呼んで。告白ってやつ?」

「えッ?!違うよ!そんな恐れ多い!」

「……じゃあ、何?」


移動した先は渡り廊下を渡った先にある教室の前。いつもひと気は少なく、先生も通ることはほとんどない。
今の時間は昼休みというのにもかかわらず、人っ子一人いない。私達だけだ。

こんなところに呼んだのはもちろん告白をするためじゃない。
そもそも彼とはそんなに長い時間を共にしたことがないのに告白だなんて……。

私はポケットに入っているものを取り出すと渚くんは不思議そうに首を傾げた。


「渚くん、この前言ってたでしょ?距離を縮めたいって。だから私なりに考えてみたんだけれど、私達ってお互いのことを知らないでしょ?だからメールとかしてお互いの事知っていきたいなって。」

「ああ。そういえば苗字サンの番号もメールアドレスも知らなかったね。」

「そうそう!だから教えてくれる?赤外線で送るよ!ちなみに渚くんって結構メールする人?」

「……まあ、そこそこには。」


渚くんがおなじようにポケットから携帯をだす。
黒いスマートフォンで、彼らしいものだった。

そっか、渚くんって結構メールするんだ?なんとなくだけれど、あまりメールをしなさそうなイメージがあったから……。


「赤外線ってどうやるの?」

「ちょっと借りていい……?わ、これ新しい機種だね。画質いいの?」

「さあ?全部本部の大人たちに任せてたから。」

「画質良さそうだからカメラで写真とか撮ったりしたら綺麗そうだね。はい、登録完了!私の方にも渚くんが登録できたよ!」


自分の画面をみるとバッチリと『渚 カヲル』の文字が出てきている。
……さらっとやったけれど、実は女子達の反感を買いそうなことやっちゃったよね……?

渚くんの顔を覗き込んでみたけれど、無表情で読めない顔をしたままスマートフォンを触っていた。

――ブブブ

手に持っていた携帯がタイミングよく震える。
メールの送信者は目の前にいる彼の名前になっていた。


「な、渚くん?目の前に本人がいるんだから……。」


とかいいつつ私もメールを開くと、
文章は何もなかったけれど大きく口を開けた黒猫の横顔の写真が添付されていた。
多分あくびを激写した写真だ。


「なにこれ可愛い!!!」

「それ、懐いてる野良の黒猫。初めて撮った写真。画質綺麗?」

「すっごい綺麗!毛並みサラサラだね!ていうか可愛い!」

「あは、今度一緒に行ってみる?ヒトがくると逃げちゃうかもしれないけれど、もしかしたら苗字サンだったら寄ってくるかもね。」

「ホント?!いくいく!!」


じゃあ、一緒に行くって約束……と小指を出され、意図を理解した私は
少し汗ばんでいた手の平をスカートにこすりつけ彼の指に自分の小指を絡め「約束」と返した。




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