突然彼から喋りかけられた。
それは理科室に移動する途中で、前に行こうとしていた身体が思わずつんのめる。


「ど、どうしたの?」

「苗字サンと距離を縮めるのはどうすればいいの?」


一瞬彼の言葉が理解できなかった。
私との距離?なんで渚くんはそんな事考えるんだろう。
そもそも男女の友達の距離ってこんなものじゃないだろうかって思うんだけれど……。

名前呼び……とかはまだ流石に早いよね。きっと渚くんもそれは馴れ馴れしいと思うだろうし。


「移動しながらでいいかな……?」

「もちろん。僕も授業に遅れて怒られたくないしね。」


彼はそういうと私の後ろをついてきた。
移動しながら考えようかな、と頭の中でぼんやりと考えていたら渚くんからまた呼ばれた。


「そういえばさ、歓迎会ってもうやったの?」

「歓迎会?何それ……?」

「なんだっけ?そんな名前じゃなかったっけ?ほら、皆と仲良くなるための。」

「林間学校のこと?」


林間学校ではなかったのか、渚くんの眉間に皺がよった。
あ、違ったのかなと思い別のイベント事を連想しようとしたらその思考を「そうだよ。」と遮られてしまった。
……口を尖らせながら。


「林間学校はどうかな……、だって化物がいつくるかわからないしね。パイロットが集まってるこのクラスは難しいんじゃないかな?そういえば碇くんも綾波さんも惣流さんも渚くんもこのクラスだね。」

「偶然、かな。」


そう言うと渚くんはスタスタと私を追い抜き理科室のドアを開けて入っていった。
私なにか怒らせるようなこと言っちゃったかな?

授業中や休み時間など、しばらく彼の行動を見ていたけれど、表情はいつもどおりのへの字口で感情を読み取ることはできなかった。

放課後になると、渚くんが帰ろうとカバンの中に教科書を入れ始めたので私も同じように急いで教科書をある程度入れてからカバンを持ち、彼へと近づく。
私が近づいてきたことに気づいたのか顔を上げて「君か。」なんて呟いた。

……どうやら怒ってはないみたいだけれど……。


「どうしたの?」

「今日一緒に帰らないかなーって……。も、もちろん、あの、施設?みたいなところにいかなきゃいけないならいいんだけれど。」

「いや、今日は別に大丈夫だよ。じゃあ、帰ろうか。」

「……うん!」


うん、やっぱり怒ってなさそうだ。
じゃあさっきのは機嫌が悪くなっただけ?林間学校が行けなかったことに拗ねてしまったのだろうか。ちょっと可愛い……。

外へ出ると茜色した空が広がっていた。今の時期は夏のような暑さの中にひやりとした風がたまに吹くのでわりと好きな季節だ。


「綺麗だね。」

「だね。何度も見たことある空なのに……。」


小さく何かが聞こえたので聞き返そうと渚くんの顔を見上げると、なんだか彼の瞳は空をみて涙をこぼすんじゃないだろうかというくらいの寂しさを含んでいたので、私は言葉をぐっと喉に押し込めた。

今日は、なんだか少しだけ、渚くんとの心の距離が縮まった気がする。


(――名前とまた、この空が見れるなんて思わなかった。)




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