渚くんから友達になって欲しい、と言われて数日。
何かがあったというわけでもなく、いつもどおりの日常が過ぎていった。

「友達になってよ」の私の返答がいけなかったのだろうか。
思い返してみても戸惑いながら「いいよ」と答えてて、別に嫌われそうな返答ではなかった……はず。

そもそも何故私だったのだろう。
確かに転校初日で友達を作るのが難しい。だからたまたま日直だった私に声をかけたということだろうか。

もしかしたら渚くんには何か目的があるのかもしれない。
そう、小さい時に覚えた「友達100人できるかな」みたいな感じでノルマを自分に課しているのかも……。
なるほど、それなら合点がいった、と小さく頷く。


「苗字さん、プリントもらっていい?」

「あ、ごめんなさい、惣流さん。」


後ろからプリントを集めにきた惣流さんに今記入していたプリントを渡す。
クラブ活動をどうするか、という内容のプリントだ。
まだどうしても決められず、後で入部しても大丈夫とのことだったので無記入で提出してしまった。

先生の元にプリントが集まると見計らったようにホームルーム終了の鐘がなる。
先生は鐘がなり終わると一言二言言ったあとに号令をかける。
一同が礼をすると各自ばらばらと動き出した。


「苗字、サン。」

「ひゃい!」


男性の声で私の苗字が呼ばれた。唐突のことで声が大きく裏返る。
あまり聞いたこともない声の主は渚くんだった。

その渚くんは私の声につられて驚いたのか目が大きく見開かれてぱちりぱちりと瞬きを繰り返していた。


「ご、ごめんっ、おっきな声出して……。どうしたの?」

「いや、一緒に帰らないって思ってさ。このあと何か予定ある?」

「ううん、ない、けれど、私でいいの?」

「そのつもりで君を誘ったんだけれど。」


彼の顔を見ると小さく口の端を上げていた。笑みに近いその表情は初めて見た顔で。
少し赤くなりそうな顔を伏せるように頷くと彼はカバンを取りに行った。

……学校からでて、しばらく歩くと、とある自動販売機の前で止まった。


「飲んでいかない?おごるよ。」

「いいよ!私自分の分は自分で買うよ!!」

「別に遠慮なんていらないのに……。」


渚くんは自販機で炭酸のジュースを買うとスタスタとベンチの方へと歩いていってしまった。
私も真似るように自販機の前に立ち、少し悩んだあとに甘いフルーツジュースを選んでベンチへと向かった。
炭酸だとすぐに飲みきれないし、なにより暑さで喉が渇いていたので一気に飲みたかったから。

既に座って飲み物を飲んでいた渚くんの隣に少しだけ空いているスペース。
人一人が座れるくらいの。もう少し端に避けてくれれば座れるんだけれど……。


「座らないの?」

「あ、う、うん、じゃあ……失礼します。」


スカートをシワにならないように押さえつけながら座る。
距離が近いためベンチのギリギリに座ると渚くんは下を向きジッと何かを見つめていた。


「どうかしたの?アリの行列でもあった?」

「ン?あ、いや。なんでもないよ。」


特に話す話題もなく、今日の部活動は何にしたかとか、授業のわからない部分があったかなど、ぽつりぽつりと話していたらいつの間にか空は青みを帯びた色に変わり手の中にあったジュースも空になっていた。


「そろそろ帰ろうか、渚くん。」

「そだね。」


軽い返事をもらい腰をあげると渚くんはベンチに座ったまま手に持っていた缶を前方に投げた。
その缶はまるでスローモーションになっているかのようにゆっくり弧を描きながら、綺麗に音も立てずにゴミ箱へと吸い込まれていった。


「……え?」

「わ、すごい綺麗に入ったね。渚くんってコントロールいいんだ……ってど、どうしたの?」


渚くんの方を振り向くと少し驚いた顔をしていて声をかけると少し嬉しそうにくしゃりと顔を歪ませて笑った。




01
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -