転校生がやってきた当日。
彼は6限目の体育の時に保健室へと向かった。
転校当日だから緊張して体調を崩したのかもしれない。
帰りのホームルームにも戻ってはこなかった彼。カバンが置きっぱなしだ。
「今日の日直……、良ければ渚くんにカバンを届けてください。」
「げ、俺今日予定あんだよね。苗字さん行ける?」
「あ、私行くよ。」
「じゃあ号令。」
号令が終わりバラバラと解散するなか私は新たに彼の机となった場所へカバンを取りに向かった。
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「君が言っていたパラレルワールド、じゃないみたいだね。」
確かパラレルワールドって同時間の別世界……、だったよね。
じゃあ、記憶が受け継がれているのは、……多分廻っているんだ。
「またこのトーラスから抜け出せなかったんだ。」
一からやり直しなんてきっついなァ、なんて思ったけれどまた名前に会えるという事実でどうでもよくなる。
時間はあるんだ。……あれ?でもなんで僕がまだここにいるんだろう。
信じてもいないけれど神様ってやつが気まぐれでも起こして僕をここに連れてきたんだろうか。
「だったら、今度はハッピーエンドでも用意していてほしいものだよ。」
皆が皆、笑顔でいられるよう。
僕が君の隣にいれるよう。
生きることが幸せだと、そう教えてくれた君が
「僕の傍にいて、ずっと教えてよ。」
――突然、ガラリと音を立てて小さく失礼しますと声が聞こえた。
名前の声だ。ああ、そっか。これは君と初めて会った日だ。
僕は一番最初にそうしていたように布団を被り寝たふりをする。
「渚くん、起きてる……?」
「……。」
『渚くん』、その言葉に何故かぎゅっと胸を締め付けられた感触がして顔をしかめる。
なんだろう、この感覚。とっても嫌だ。
「……寝てるのかな?えっと私今日、日直の苗字って言うんだけれど、カバン、ここにおいてくね。」
僕に気を遣って音が出ないようにそっとおいたんだろう。服であろう布が擦れる音がしただけだった。
以前の僕はこのまま寝たふりを続けていたよね。確かそうだったはず。
同じ運命にはしたくないけれど、まだ僕らは始まっていないんだ。
「ひゃっ……、あの、な、渚くん?」
「あれ?」
いつの間にか起き上がって僕は去ろうとしている彼女の腕を掴んでいた。
ほとんど無意識だったから名前が目をパチパチと瞬きさせているのをみて僕の意識は正気に戻る。
あれ?僕寝たふりするんじゃなかったっけ?
……まァ、いいか。もうやってしまったのはしょうがない。
「苗字サン、僕の友達になってよ。」
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