5月。というと少し浮き足立つ季節かもしれない。

いろいろなイベントが目白押しの新緑の季節。
そして一大イベント、「職業体験」の話が私たちのクラスでも行われていた。


「皆、手元にプリントは渡りましたか?そこに書かれている第一希望と第二希望、それを書いてください。そちらのほうは場所ではなく職種を書いてくださいね。右側のほうにあるのが職種です。」


ずらっと並べられている数字が書かれた職種の中でどれにしようかと心の中で唸りながら考えていると、突然背中をたたかれる。
背後を振りむくと後ろのクラスメイトから私の名前が書いてある四つにたたまれたルーズリーフを渡された。
中身を開いてみるとそこには一文だけで、綺麗な字。


(渚くん?!)


一番上には名前が丁寧に書かれている。紛れもない彼の名前だ。
だがしかし、こんな女子中学生がやっていることを本当に彼がやるのか、と不思議に思って顔をあげ彼がいる席のほうへと目線をむけると
私のほうをみていたのかばっちりと目があった。
(……もしかしてずっと見ていたの?!)

私と目が合うとくい、と顎を上げる。
……多分、この手紙の返事をもらいたいんだろう。

手紙には一言、「どこにするの?」と。


(といっても、まだしっかりと決めていないんだよね。)


軽く目を通してもどこにするか結局決まらず、顔をあげ苦笑いしながら首を傾げるとため息をついたように大きくジェスチャーしたあとに自分のプリントと向き合った。
……というか渚くんは私と同じところにしたかったのだろうか?と思うと少し嬉しく感じた。
ただ私はまだそこまで渚くんと仲がいいと言い切れるほど交友関係はない、気がする。


(どうして私なんだろう?)


そういえば前からなんだか渚くんは少し距離感がおかしい気がする。
もちろん他の人にもそうなんだけれど、特に私には。という感じで。
渚くんはかっこいいから、彼のことを好きになる人は沢山いる。そのうちの一人、といわず何人からか「苗字さんは渚くんの彼女なの?」と聞かれたことがある。
その答えには全てに首を横に振ってきたけれど。
……でもそう言われると少し意識してしまう。
万が一、億が一、彼が私を好きだったら?……なんて。

ブンブンと首を振り、プリントへと向きなおる。


「はいじゃあ、プリントを後ろから集めてください。まだ書き込めていない人は明日の朝とかに先生に届けてください。」


先生はざわつく教室にそう落ち着いた声でいう。
少しうるさかったにもかかわらず、後ろまで聞こえたのかタイミングは揃わないにしてもぞろぞろと立つ。
私の列の人も立ち上がり自分の席の隣に立つ。

顔を上げて首を振るとそれだけの動作でわかったのか、こくりとうなずいて前の席の人へと歩いていく。


(結局決まらなかったなあ……。幼稚園とか楽しそうだし、お仕事って感じじゃないからラクそうだなあ……。)


ぼんやりとしていると終業のチャイムがなり、ホームルームもないという事だったので皆はそのままバラバラと帰っていく。


「苗字サン、一緒に帰ろう?」

「あ、うん。帰ろうか。」


この前の歓迎パーティーから帰る方向が途中まで一緒という事がわかったため最近は時間が合うなら渚くんと帰っていた。
その渚くんから声をかけられ、わたわたと先ほど配られたプリントやら宿題がでた教科書やらを鞄にいれていく。

準備ができて二人で帰路についていると渚くんは「少しいい?」とベンチを指差した。


「職業体験のやつ決めなかったの?はい、お茶でいい?」

「あ、ありがとう。うん……、なんか悩んでてて。渚くんは決めた?」

「僕は君と同じところにしようと思ってる。」

「え。」


その言葉に先ほど打ち消した自分の言葉が脳内を駆け巡る。
彼が私を好きだったら、なんて。


「な、渚くんは自分の好きなところに行ったほうがいいよ?ほら、職業体験なんだし、将来行きたいと思ってる所に行ったほうがいいよ?」

「パイロットはもう先が決まってるようなものだからね。軍事に関わってるからシンジくんもファーストもセカンドも、もうネルフから離れられないよ。だったらこの職業体験も意味はないものだしね。適当な場所でいいんだ。」

「あ、そ、っか。ごめん無神経なこといって。」

「別に。だから僕は君と同じところに行きたいんだけれど。」

「う、気持ちはうれしいけれど……、何で私なの?」


胸の心臓がはじけそうなくらいに跳ねる。聞いちゃいけない言葉なのかもしれない。
聞いたら後戻りできないかもしれない。それでも、好奇心には勝てず、
震える声で聞いてみる。


「……、それは苗字サンから目が離せないからだよ。」


一呼吸おいて。
私のほうをじっと見つめながらそう彼は言った。





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