育成計画 | ナノ
「最優秀賞は……、3-Cです!」


その言葉にワッと歓声が前の方で湧く。
きっとあそこの席が3-Cなんだろう、そこに座っている人たちが隣の人と抱き合ったり、背中を叩き合ったりしている。

私たちは金賞という結果だった。
三年生になったら私たちも最優秀賞をとれたらいいな。きっとあんな風に泣きながら喜べるんだろうなぁ。


「伴奏者賞とかあったらきっとカヲルくんがとってたよね。」

「渚くん、かっこよかったもんね。」


隣に座っていた洞木さんが賛同をしてくれた。
スポットライトを浴びながら、碇くんの滑るような指揮を見て少し緊張した面持ちでピアノを弾いている彼は誰よりも輝いて見えた。

終わった時にカヲルくんが碇くんの元へ小走りで近寄り、二人で礼をして
顔を上げたら彼は碇くんに背中をポンポンと叩かれてた。
カヲルくんは苦笑いしながら碇くんに話しかけてたけれど、何を話していたんだろう。


もし「泣きそう」とかだったら……と思うと私もうるっと来てしまった。

……一番初めに比べたらカヲルくんはすっかりクラスの皆と仲良くなって、
最初の冷たい不思議なオーラを纏ってたあの頃はもう面影がなくなっていた。


「じゃあ、行こうか?」

「カヲルくん、えっと、お疲れ様。」

「お互いにね。」


合唱コンクールも終わり各自学校の展示を見て回る時間だったのでカヲルくんは私の元へとやってきた。
そのまま帰ることも可能なのでバラバラと解散する中、私たちは校舎へと向う。

私たちの貼り絵は教室に大きい板を立てて展示してあるから、夕方には撤去しなくてはいけない。
そのせいかクラスの皆とは学校内で会い、すれ違ったりした。
その際に私とカヲルくんをチラリと見る。

……多分、仲直りしたのかな?なんて思われてるんだろうな……。


「どこの教室いく?僕こういったの初めてでどこからいけば行けばいいかわからないんだよね。」

「私は一年の時、すぐ帰っちゃったから……。実はしっかり周るのは私も初めてなんだ。だから適当に周ろう?」

「うん、了解。」


1年生の展示は「セカンドインパクト前の歴史」だったり、「暑さ対策」だったり結構真面目なのばかりで少し早めに周った。カヲルくんは気になったらしく足を止めては読んでいるようだったけれど。
2年生の展示は趣向を凝らした展示で貼り絵だったり騙し絵、体験できるような感じのわくわくとするようなものだ。3年生は合唱コンクール中に劇をやったので3年の展示はなかった。


「ここの展示はなんだかあそこを思い出すね。」

「カヲルくんも思ってた?私もあの科学館思い出す……。」

「あは、ほら、プラネタリウムの作り方だって。皆考えることは同じだね。」

「アンタたちってホント仲良いわよね。」

「うわああ!」


科学をテーマにしているクラスに入り、夏休みのことを思い出していたらアスカちゃんから耳元で囁かれた。い、いつの間に後ろに……!
一緒に周っていたであろう碇くんと綾波さんもいる。


「あ、苗字は渚と仲直りしたんだね。」

「あ……。」


実はまだ仲直りはしていないんだよね……。なんて苦笑いしていたら事情を知っていたアスカちゃんが碇くんに蹴りを入れた。
すごく痛そう……。バスンと嫌な音がした。


「バカシンジ!ほら、次に行くわよ!」

「いったァ……、ちょ、待ってよ!ほら、綾波も。」

「……じゃあ。」


アスカちゃん、碇くんが出て行った後、綾波さんが小さく手を振ってくれたので私は手を振り返した。
……少し気まずい。カヲルくんはどうしてるんだろう、ってカヲルくんの方を見たら私の方をずっと見ていた。


「カヲ……」

「次に、行こうか……。」


カヲルくんは顔を背けると急いでいるかのような速さで教室を出た。
……しばらく一緒に周ったけれど、その後も口数は少なく私たちの距離は離れたまま片付けの時間となった。


「終わった人は帰っていいから!」

「ほなら一抜けやな。もう作業ないわ。じゃーな、苗字!ケンスケ!」

「あ、うん、お疲れ様。」

「トウジはいいよな。大きい絵だったから片付けるの簡単でさ。」

「だねー。私たちも大きいのにすれば私だけが居残ることなんてなかったのにー。」

「あはは、それは苗字の作業が遅かったせいだろ?」

「え?!う、そ、そうだけれど……。」


相田くんはてきぱきとイラストを外したり、額を片付けたりと作業を着々と進めていた。

私はというと、糊付けが甘かったのかパラパラと折り紙が落ちてきて拾ったりしている。


「俺、今日用事があるから……、ほら、渚、苗字が大変そうだぞ。手伝えよ。」

「大丈夫?」


カヲルくんが拾ってくれたので顔を上げて相田くんを見ると口の端をくいっと上げてウインクをされた。
彼は気を使ってくれたのかもしれない。


「……名前。」

「え、……ど、どうしたの?」


相田くんにありがとう、と口パクをしてその背中を見送った後に声をかけられた。
呼ばれた方を見るとカヲルくんが真剣な顔をしていて、「話があるんだけれど」と続けられた。

周りを見渡すと人もまばらで小声で話せば聞こえないくらいの距離だった。


「な、何?」

「この前のキスはごめん。」


カヲルくんはさらっと謝るものだから思わず面食らってしまった。
彼はもっと謝らないものだと思ってたから。というか何が悪いかをわかっていなさそうで。

でも、彼の面持ちは真剣そのもので私との関係を戻したいって思ってくれるのがすごく嬉しくて。


「その、私もごめんなさい。あのとき酷いこといった。」

「それは別にいいよ。その時の気持ちをそのまま言ったんだから。……シンジくんに相談したんだけれど、こういうのはヒトが少ないところでって言われたんだ。」

「人が少ない?」


確かにここは人が数人しかいないけれど……。


「僕は君が好きなのかもしれない。」

「…………へ?」


へ、って、私なんて返事して……いや、その前に!!
え、カヲルくんが、私を、好き?いやいや、違う、これは友人としての好き!
所謂LIKEよ、勘違いしちゃ駄目!


「そ、それは友人として、だよね?」

「いや?恋愛対象として。」

「…………え、あの、えっと……!冗談、だよね?」

「名前は疑い深いなァ。僕の好きは信用ならない?」

「いや、そ、そうじゃなくて、カヲルくんの好きがよくわからなくて……。」

「僕にとっての好きと君にとっての好きは違うよ。
傍に居たいとか、観察していたいとか、話していたいとか、一緒に帰りたいとか、
そう思うことが僕にとっての君への好きなんだ。」


最近、言われて気づいたけれどね、と一言つけくわていった。
カヲルくんそんな冗談を言う人じゃないし、本気……っていうことだよね……?


「あと誤解を解いておこうと思って。シンジくんに相談したらそれは怒られる、と言われたんだ。ちゃんとした言葉で伝えないとね。
君が言っていたセカンドやファーストに『同じ立場だったらキスをしたか』って事だけれど、君と同じ立場、つまり僕が好意を寄せていたらキスをしていただろうって事を言いたかったんだよね。でも僕が好意を寄せているのは君だけだよ。」


「……あの、カヲルくん私」


……私の言葉は突如鳴った大きな警告音で遮られてしまった。

こんな時にあの化物が……。


「出撃命令。名前、また明日この話はしよう。近くのシェルターに行ってて。」

「う、うん。」


携帯を見ていたカヲルくんはその携帯をしまい教室のドアへと向う。
私の気持ちは決まっているけれど、こんな時に告白の返事をするのもどうかと思い彼を見送った。




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