髪型もよし、制服も変じゃない。と何度も鏡をみてチェックをする。
――今日は文化祭当日。
文化祭の日程は午前中と午後に少し時間を取って学校の近くにある音楽ホールでクラスの合唱コンクールがあり、その後にクラスの出し物を各自で周るという感じになっていた。
私の貼り絵もようやく完成して、今は剥がれていないだろうかという不安だけしかなかった。
「……今日、カヲルくんと一緒に周るんだよね…?」
ちゃんと話せたのはあのメール以外は無くて、結局今日まで気まずい関係を続けてきていたけれど……。
私も仲良くできたらしたい。キスはされたけれど、好きな人にされたという事実が私の気持ちを嬉しくさせる。
「カヲルくんのばか……、でも喜んでる私はもっとバカ。」
唇をなぞるとあの時の風景が頭をよぎる。
真剣に見つめる瞳、思い出したその瞳に徐々に赤くなっていく私の顔が鏡に映る。
気合を入れる為にぱんっ、と頬を叩きカバンを手にした。
学校に着き教室に入るとカヲルくんが教卓の所で何かをしているようだった。
手元をみれば黒白に並んでいる印刷物。ひと目で鍵盤だとわかる。
「おはよ、名前。」
「おはよ、カヲルくん。……それ。」
「ああ、これ?イメージトレーニング。今日本番だからね。あと、今日よろしくね。」
「……うん。」
果たして今のよろしくはクラスメイトとして合唱を完成させようとしてのよろしくだったのか、今日の午後は一緒に周るからよろしくねだったのか……。
知らず知らずのうちにため息をついていたのか相田くんから「ため息。」と指摘される。
席につこうとする相田くんを追いかけていく。
「ごめんなさい……。」
「なんで俺に謝るんだよ。別に俺的にはそのままだっていいんだからな?神様は俺に微笑んだ!ってテンションがあがるからなー。」
「相田くんも……、私たちの喧嘩を知ってたの?」
「俺を誰だと思ってんのさ。ていうか、バレバレだろ。特に俺は苗字を見てきてるしな……。」
「え!……あ、えっと……。」
「気構えんなよ。」
相田くんは呆れたように笑うと少しだけ肩をすくめた。
「あー、その、なんだ、苗字と渚が喧嘩して俺の得にはなるけれど、苗字はそれだと落ち着かないんだろ?」
「うん……、そうかも。」
「そういう顔は見たくないっていうか……、ま、なにもできないけれど、好きにやったらいいと思うよ。」
「……ありがとう。」
きっと私は相田くんはすごく傷つけている。こんな優しい言葉を伝えるには、
私とカヲルくんが仲良くなるっていうリスクを負わなきゃいけなくなる。
心の中では感謝の気持ちと謝罪を入れて席につくとアスカちゃんが私の席までやってきた。
「席についたとこ悪いんだけれどさ、そろそろ行く?今ここに居ない人たちって多分もう行ってるのよね。あっちに。」
「え、そうなの?!じゃあアスカちゃん一緒に行こう!」
カバンを掛けようとしていたところだったのでその手を止め立ち上がり、
既に歩き始めているアスカちゃんの後を追う。
教卓の方を出る時にチラリとみたけれど、そこにはカヲルくんはいなかった。
ピアノの伴奏者だから打ち合わせとかがあるのかもしれない。
アスカちゃんと音楽ホールに向うとパンフレットを受け取る。
「えっと、2-Aは席はここね。順番は……、げ、お昼前……!一番集中力ないときじゃない!」
「あー、お腹なりそうだよね!」
「アンタ……、そこが不安要素?そういえば……、あのホモとはどうなった?」
「今日、一緒にこの後周る予定……、かな。」
「そ。」
何かまたされたら殴んなさいよ?と軽く脇腹をパンチされそうになり、
条件反射でそのパンチを思わず避ける。
避けたせいかアスカちゃんはムキになって私の体をくすぐろうと手を伸ばしてくる。
「やだー!くすぐったいの苦手なの!!」
「アンタが避けるからでしょー?覚悟なさい!」
「二人とも元気だね……。」
「なんやお前ら、緊張しとらんのかい?」
お手洗いに行こうとしていたのかホールの中から碇くんと鈴原くんが出てきた。
あ、そういえば碇くんって音楽をやっているっていうことで指揮者だったよね。
「碇くん、今日頑張ってね。」
「頑張るのはみんなだけれどね。でもありがとう、頑張る。」
「なんや、渚にもそれ言ったんか?」
「こんッの、バカが!アンタってホントデリカシーないわね。脳みそまで筋肉で出来てるんじゃない?!」
「なんやとー?!」
今の鈴原くんの言葉で思い出した。
……確かに私、カヲルくんに頑張れって言ってなかった。
気づいてしまうと心の中が何故かモヤモヤとなってきて、胸元を押さえる。
「言ってきなよ。」
「え?」
「渚に。アイツもあれでイメージトレーニングとか練習するくらい緊張してるみたいだし。」
「……そうだね!行ってくる!」
私はホールの入口に入り2-Aが座る場所に小走りで向う。
カヲルくんは目立つんだ、こんなに人がいるのにすぐに見つけれる。
それは銀の綺麗な髪をしているからとかではなくて、
多分、好きだから、かな。
「か、カヲルくん!」
「?」
カヲルくんの席の隣の人がもう座っていたので一つ後ろの席から声をかけるとこっちを向いてくれた。
私の心臓が走ってきたから、というのもあるけれど仲直りしていない時だから
かなり緊張しているのかもしれない。すごく跳ねている。
「あの、今日がんばってね。」
「……」
少し驚いた顔をしていたけれど、いつか見せてもらった笑顔で私にピースサインを見せてくれた。
頑張ってね。そして、みんなで、頑張ろうね、カヲルくん。
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