常時夏気候の日々なのだけれど、
ようやく少しだけ涼しくなってきた。
もう10月か……、と冷蔵庫に貼っている予定表を見てみる。
今月には文化祭がある。
ちなみに私達のクラスは歌と展示会をする予定。
展示会ではパネルに升目を書き、それに四角の折り紙を貼っていき
絵を完成させるというものでそれを少数の人で班になって作り上げていく。
それを展示しようということになった。
今回、私の班は例によって例のごとくカヲルくんと一緒になり、
そしてもう一人。……相田くんと一緒になった。
正直いうと、すっごく気まずいんだけれど相田くんが気を遣ってくれているのか
前の関係に戻ったかのような話しやすさだった。
「でも、悪いって思っちゃうんだよね。」
冷蔵庫の中から飲み物を出して、自分のコップに注いでから一口飲んで
ふうと一息。あれ、今何分だろう、と時計をみるともう登校しなきゃいけない時間で。
急いで飲み終えシンクにコップを置いて水を入れて駆け足で登校をした。
「渚ってさぁ、手先器用だよなぁ。」
「そうかなァ?普通くらいじゃない?」
「普通の器用さで自作のプラネタリウムとか作るかよ。なぁ、苗字?」
「え、何!?あ、違うとこに落ちちゃった!」
「ああ、悪い悪い、真面目に作業してたんだな。」
相田くんは私が落とした折り紙を拾うとホイ、と渡してくれた。
私は受取りながらさっき二人が話していた会話を思い出す。
プラネタリウム……、夏休みの宿題のかな?
そういえば、夏休みが終わって宿題を提出したときカヲルくんのプラネタリウムが進化していたのにはビックリしたなぁ。
せっかくだからちゃんとしたものを作りたいということで、立派にしたらしく。
私と作った私の星があるプラネタリウムはというと、実は私の部屋にある。カヲルくんがあげるといって学校の帰りにわざわざ家にまで来てくれたので、ありがたくもらった。
確かに進化したプラネタリウムはすごくキレイに出来ていて、
カヲルくんの器用さが伺える。今回の歌の伴奏のピアノもカヲルくんだし。
「それに比べて私は不器用だなぁ……。」
「いんや、味があっていいんじゃない?」
「あはは、ありがと……。」
手元の展示するイラストを見ても糊ははみ出しているし、ずれてるし、紙がシワだらけになっている。
私の班は童話のイラストがメインだ。私は「しあわせの王子」をチョイスした。
二人からなんでそれを?って聞かれたけれど、何故かそれが一番最初に出てきたから……。
相田くんは作りやすいという理由で桃太郎、カヲルくんは人魚姫を選んでいた。
鮮やかな青色と白い泡で構成された人魚姫は童話の説明のようなイラストではなく
一枚の絵画のようだった。
そんなのを作られたら器用というより最早才能としか思えないよ……。
「ねえ、カヲルくん、どうして人魚姫にしたの?」
「……。笑わない?」
「なんだよ、渚、変な理由か?」
「ちゃ、茶化したら駄目だよ……。」
「人魚姫は似てるなって思ってさ。」
「誰に?」
「僕に。」
私と相田くんはポカンと口を開けてしまった。
人魚姫がカヲルくんに?確かに、キレイなところとかは似てるかもしれないけれど、
そんなこと言ったら、どの童話もキレイな人ばかりだし。
相田くんも口をへの字にして腕を組んだまま
ちゃくちゃくと出来上がっている人魚姫とカヲルくんを交互に見ている。
「ちなみにどこらへんがだよ。」
「それは言えない。僕が泡になるからね。」
「ほー、じゃあ泡になったらライバルが減るって訳だ。」
「あ、相田くん……!」
相田くんの顔を見るとニヤニヤと笑っている。
彼はどこまで本気で言っているかわからない時がたまにあるんだよね。
カヲルくんはカヲルくんで気づいてないみたいで碇くんの方を見ていた。
うう、ライバルって次元の話じゃないみたいです……!
人魚姫……声を失ってでも好きな王子様のそばに居たかった。そしてやがて王子様は別の人と結婚することになり、王子様を殺せば人魚に戻れるということだったけれど、殺せず泡になってしまう。
悲恋の童話で有名な彼女とカヲルくんが……。
もしも自分を人魚に、王子様を碇くんに例えているのならば……、
彼は男だから、好きと言うことを伝えられない、伝えたら友達という関係が崩れてしまうから……っていうことなのかな?
「カヲルくん!悪い魔女には気をつけてね!」
「は?」
うん、思いっきりキョトンとされたけれど良いの!
私もカヲルくんの恋路、応援するからね!
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