夏休みも終わり頃にメールが入った。
相手を確認すると、案の定というべきか。カヲルくんだった。
多分、宿題でわからないことがあるだろうな、と予測はしていた。
「もしもし?」
「あは、やっぱりメールより電話の方が楽だからかけちゃったよ。センセは今日暇?」
「うん、大丈夫だよ。しっかりお昼まで寝ていました。」
「不健全だなァ。」
「……カヲルくんは今日何時に起きたの?」
「6時だけれど?いつもどおりだよ。」
思った以上に早かった。
しかもいつもそれくらいに起きてたんだ……。
「そうそう、名前は自由研究って何をすンのか知ってる?」
「自由研究だから……、自由でいいんだと思うけれど。」
私の勘は当たったようだ。普通の宿題ならばカヲルくんはするはずだ。
だけれど、日記とか、自由研究とか決められていないようなことは苦手だろうな。と考えていた。
そういった何かを知りたいことは私に話が回ってくるので、実は私の自由研究は終わらせてある。
「カヲルくんは何か興味のあるものある?例えば理科とか……実験とか、図工とか……。」
「……んー、星。」
「ほし?」
星ってあの星だよね?星に興味があるってことなのかな?
カヲルくんが空を見上げて星の説明や、神話を話しているのを想像してみた。
……うん、かなり似合ってる。
「そっか、カヲルくん、プラネタリウム作ったら?」
「プラネタリウム?……確か星を上映するアレだよね。」
「うん、電球とかで作れないかな?」
「……実物を見に行きたいな。もう一度聞くけれど今日は暇?僕とデートってやつしない?」
「…………へ!?い、いく!連れてってください!」
思わぬお誘いに体は跳ね起き、お父さんが気になって部屋を覗きにくるくらいの大声で返事を返してしまった。
電話を切り、急いで支度をし、電車を乗り継ぎ、科学館へとやってきた。
「カヲルくん、ごめん、お待たせ……!」
「僕もついさっき着いたから待ってはないよ。」
その言葉を貰った瞬間、少しハッとする。
これってさっきカヲルくんが言ったとおりデートなんだ。
前回、一緒に買い物したときとかは碇くんの誕生日プレゼント買ったり、
キャンプの買出しだったりで、ちゃんとしたデートじゃない。
でも今日はカヲルくん自身が言ってたんだ。
「デート」ってはっきりと。(たとえそれが自由研究のためだとしても……!)
これが初デートとなると失敗しないようにしなければ……っ
髪の毛大丈夫かな?服は変じゃないかな。
「く、く……名前って落ち着きないって言われない?」
「い、言われないよ!そんなことないよ!」
「でも僕の前では忙しないよ?……僕だけってこと?僕だけが特別ってこと?」
すごく嬉しそうに聞かれるものだから、違うとは言いづらい。
というかそもそも、カヲルくんの言ってることは間違いじゃないから、否定が出来ない。
「沈黙は肯定と受取るよ。あは!なんだか楽しくなってきたよ。」
「じ、自由研究のことも忘れたら駄目だからね!」
「……うわァ、これが現実にもどされるっていう感覚なんだね。」
結局、キャンプのときはそれが恋愛なのかどうかは本人には聞けなかった。
カヲルくんはきっと大切な友達にもそんな風に言いそうな気がする。
例えば碇くん。例えばアスカちゃん。例えば、私にも。
「さ、チケット買って行こう?ワクワクしてきたよ。」
「そう、だね。」
彼が開放厳禁と書かれているドアを開けて待っていてくれた。
そんな私を思いやってくれている行動にも一つ一つ私の胸に熱がともる。
お礼をいって急いでドアの間へと体を滑り込ませる。
私以外にもそういうことするの?アスカちゃんや綾波さんにもするの?
そんなどろどろとした感情が胸の中で疼きだす。
……やだな、これが嫉妬っていうやつなのかな。
ねえ、カヲルくん。
私は今、貴方のどの位置にいるんですか?
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