「っていうのも理由があるんだ。」
カヲルくんは話を切り出した。
それの内容はとても不思議な話でとても現実とは思えないような話だった。
話が終わると、カヲルくんは質問とかある?と顔を覗くように首をかしげる。
「えっと、じゃあ要約すると、パラレルワールドの私は死んでて、ここの世界の私はカヲルくんのおかげで助かった、ってこと……?」
「パラレルワールド……、なるほど、そんな解釈の仕方があったんだね。僕はまわっていると思っていたよ。面白い見解だ。」
……もちろん、そんな輪廻かパラレルワールドかどちらかとかはどうでもいい。
信じられない話だった。けれど、そういえば一番最初にあったとき私をシェルターへと送ってくれた。私が行こうとしていた別の場所へと。
結局、あのシェルターはまだ立ち入り禁止区域でどんな状態かわからないけれど、……知っていたのだとしたら?
――納得ができる。
「あのとき、フルネームを聞いて、君だと確信した。君はあそこで死ぬ運命だったんだ。それを僕の気まぐれで助けた。」
「どうして……、カヲルくんは助けてくれたの?」
「……名前は僕と一番最初にあったのはいつだい?」
彼の言葉に少し言葉につまる。実は一番最初、というのはきっと彼は知らない。
転校早々、カヲルくんは授業最後の体育を保健室で休んでいた。
授業が終わっても、帰る時間になっても、帰ってこない彼に
その時に日直だった私がカバンを届けにいった。
カヲルくんは保健室でぐっすりと寝ていた。
声をかけても起きなかったため、カバンだけを置いていったんだけれど。
だからあの時が初対面じゃなかった。
「君は覚えてないかもしれないけれど、君と初めてあったのは保健室だったんだ。僕にカバン持ってきてくれたんだよ。」
「お、起きてたの!?」
「あは、覚えてたんだ?それの……恩返しみたいなものだったんだよね。」
「たかだかカバンで命を救ってもらっちゃったんだね、私。」
「あとは……、君なら……優しいし、友達になってもらえるかもしれないと思ってさ。」
カヲルくんは私の方を向かず、餌のついていない釣竿の先を見ている。
もしかしたら最後の言葉にちょっと照れているのかもしれない。
「そっか……、友達になってくれてありがとう、カヲルくん。」
「……僕こそ。」
私の方も少し照れてきた。あれ、そういえば最初に言っていた傍に居たいと言っていたのはなんだったんだろう?
「カヲルくん、傍に居たいってどう言う意味?」なんて聞きたいけれどなんだか告白されて聞き返しているみたいで、なんだかそれも悪い気がする。
「それでさ、君を助けたせいで歪があるようなんだ。」
「ひず、み?」
「そう。要するに君はこの世界には居ないはずなのに存在している。だから、世界が、運命が名前を消しにくるだろう。というか何度かあったみたいだしね。」
カヲルくんの言葉を聞いて思い返してみても、そこまで命の危険を感じるようなことがなかったけれど……?
確かに階段から落ちそうになったりとかはあったけれど、あれはカヲルくんが助けてくれたし。
……そういえば助けてもらわなかったらどうなっていたんだろう。
そう考えてしまうと私の意思とは別に体が勝手にふるっと震えた。
「……僕は。」
カヲルくんが体育座りをして、自分の足に顔をうずめながら、やっとこちらに目線をくれた。
「君を失いたくない。大事に思ってるんだ。」
それは恋なのですか?
カヲルくんは私のことを好きなのですか?
私とずっと一緒に居てくれるんですか?
そんな言葉は川のせせらぎに流れていったのか一言もでてこなかった。
ただただ私は、彼の真剣な瞳に魅入っていた。
31