育成計画 | ナノ
ひとしきり遊ぶと日も落ちて、そろそろご飯、という時間になった。
カレーかバーベキューかという話でもめていたらしいけれど、部品を持ってくるのが大変ということでカレーになった。


「懐かしいなぁ、なんだか小学校のころ思い出す……。ねえ、碇くんは小学校の時から料理うまかったの?」

「うーん、うまくはなかったけれど、作れるのは作れたよ。」

「すごいね……!やっぱり……、ご家庭、忙しかったの?」

「……まぁ、ね。」


少し碇くんが言いづらそうにしていた。地雷を踏んでしまったかもしれない。
そういえば碇くんのお父さんって確か……。


「ネルフの支部がここにあるの。」

「うわあ!びっくりした!!い、いきなり何?!どうしたの、綾波さん!」

「さっき、伝えそこねた。」

「え、さっき……。」


ポン、と手を叩きそうになった。手にはカレーを持ってたからできなかったけれど。
さっき、つまり綾波さんと話していた『ここの近くには』の答えだ。

なるほど、ここの近くに支部があるって言おうとしてたのね。
なーんだ、幽霊じゃないのか。良かったような、拍子抜けなような。


「支部?そうなの?」

「碇くんも知らなかったの?」

「うん、初耳。」

「そう、松代。だからチルドレンたちはここに集合できてる。誰ひとりかけることなく。」

「え、じゃあまさかここの近くに初号機とか……!」


綾波さんはこくり、と頷く。
初号機?ってなんだろう。名前からするに何かの機械っぽいけど、まさかエヴァ?

でもそんな簡単に持ってきていいものなのかな?移動するのにもお金がかかりそう。

そういえば、綾波さんが話しかけてくれたおかげでさっきの気まずい空気がなくなっていた。あれ、もしかして、綾波さんは助け舟だしてくれたのかな……?


「そういえばさ、苗字。」

「え、な、なんでしょう?」

「そんなかしこまらないでよ。……あのさ、苗字の好きなやつって渚だろ…?」

「な、な、なにを……!」


茶化す感じに聞くでもなく真剣に私を見つめている。
そんな真剣な眼差しに、ぐっと言葉はつまったから、小さく頷く。
碇くんはそれで満足したのか、カレーと向き合う。


「苗字ってさ、わかりやすいよ。多分、最近意識したんだろうと思うけれどさ。」

「……うん、というかまだ、どっちの好きかよくわかってないけれど……。」

「その気持ち、隠してたほうがいいよ。アイツ馬鹿だから気づかないけれど、周りが気づいて、その、傷つく人がいるかもしれないしさ……。」

「傷つく……?そっか、渚くん人気者だもんね……。気をつけとく。ありがと、碇くん。」

「……鈍感。」


ぼそっと何か聞こえた気がするけれど、聞き返すのは失礼かなと思って聞き返さなかった。

ご飯も食べ終わり、アスカちゃんが持ってきた花火をしようということになった。
私は花火を処理するためのバケツをもち、川に水を汲みにきていた。

夜の暗いなか、さらさらと音がする。澄んだ空気に綺麗な音。
心癒されるなあ、なんて思っていたら後ろから砂利を踏む音がする。


「持とうか?」

「あ、相田くん。わざわざ来てくれたの?ありがとう。」


どれくらい汲めばいいのかわからず、少し多めに水を入れたところだった。
気がきくなあ、なんて思っていたら先日私が言っていた事を同時に思い出した。

今はふたりっきり、チャンスかもしれない。


「ねえ、相田くん。……ちょっと聞きたい事があるんだけれど……。」

「何?」

「……その、カヲルくんの事なんだけれど、カヲルくんって好きな人いるのかな?」


相田くんは結構みんなのこと見てるし、カヲルくんとも仲がいいから、もしいるならば知っているかもしれない。
これで、好きな人がいるならば、ちょっと、……どころじゃないと思うけれどショック。


「やっぱ、苗字の好きなやつって渚だったんだな。いや、なんとなくわかってたけれど。」

「え……?」


雰囲気が変わる。空気がなにか張り詰めたようになる。
どくどくと心臓が早くなって、相田くんから目が離せなくなる。


「渚の情報は教えてあげない。だって、好きな奴が別の男のことで一喜一憂してるの見たくないんだよ。」

「あ、相田く……。」

「俺は、苗字名前しか見てないんだよ。お前が好きだから。」


ガツン、そんな風に頭を殴られたような衝撃。
好きだと言われたこともだし、相田くんが私を見ていたなんて思わなかったし……


「わ、私みんなのところにもどるね……!」


後ろを振り返り、途中で砂利につまずきながら、みんなの横を駆け抜ける。
心配されないように少し風にあたってくると過ぎる瞬間に伝える。

今止まると私が泣いていることがバレてしまう。

森の中に入り、しばらくいったところでうずくまる。


「うぅ……。」


我慢をしていた声まで出てしまった。もう誰も居ないから、泣いてもいいよね。


私のことを好きなことは正直、嬉しい。
でも私がそれに気づかず、私がカヲルくんを好きだと自覚してから
私はずっと、その間ずっと彼を傷つけていたんだ。
――そして、今日一番傷つけてしまった。


私が、情けなくて、子供だったから……。
私は、情けなく子供のように泣き続けた。




28