育成計画 | ナノ
「いただきます」

同じ言葉がかさなる。
二人で両手を合わせて箸に手を伸ばす。

ちらちらとカヲルくんを見ながらご飯を食べていたら何?と言われてしまった。
そうだ、カヲルくんって視線に敏感だった……。


「えっと、あの、カヲルくんのお口にあうかなって……」

「まずくはないよ?君が作ったの?」

「ううん、おかあさん。」

「なるほど、コレがおふくろの味ってやつだね。そう思うと少しおいしく感じるね。」

「た、多分違うと思うけれど……。」


もし私が作っていたのならば彼はなんといっていたんだろう。
おいしい、とは性格上、なんだか言わない気がするけれど……

そもそも私そんなに料理作ったことがないから頑張らないといけないけれど。

そのあともそこそこに話して、食器を洗っていた時の事。
カヲルくんはすぐ、お風呂にいってそしてカラスの行水よろしくすぐにお風呂から上がってきた。


「お風呂あいたよ。」

「あ、うん、私も後で……ってカヲルくん!ふ、服を着て!!」


顔を背けて食器に目を向ける。
一瞬でカヲルくんの上半身が目に焼きついてしまった。
ぽたぽたと雫が落ちるしっとりと濡れた髪に、
火照りが冷めない白くほんのりと赤い肌。

顔に熱が集まる。
持っていた皿を力強く握り締める。


「別に全裸じゃないんだから。」

「ぜ、全裸だったら叫んでるからね!?」

「そういえば、これドライヤーってやつだよね?どうやって使うの?」

「ドライヤー使ったことないの?」


チラチラとカヲルくんを見るけれど、上を着る気がないみたい。
ドライヤーを片手にペタペタとこちらに近づいてくる。

私も食器を直して、カヲルくんの方を向いたら
途端にカヲルくんが視界から消えた。

という表現はあっているのかどうかわからないけれど、
今の状況に頭がついていくまで、しばらくそう思ってしまった。


カヲルくんが、多分バランスを崩した。
片手は私の腕を掴み片手はシンクを。
私はいつの間にか彼とシンクの間にいた。


がらん、と大きな音がしたけれど、どこか遠くでなった気がした。


「っと……びっくりしたァ……、ごめんごめん……ってアレ?固まってる?」

「……」

「ちゃんと拭けてなかったみたい。……おーい、名前?」

「わ、私もびっくりしてる」

「あは、ごめん。びっくりして掴んじゃったや。すごく顔赤いけれど、大丈夫?僕、頭ぶつけちゃった?」


顔を覗き込まれる。近い距離。

――じゃあ、手を繋いだり、キスしたり、それ以上の事したいと思う?

以前、アスカちゃんに言われた声が脳内で響く。
キス、しそう。カヲルくんの唇に目が奪われる。
すごく、ドキドキしてる。

不意に、彼の手が腕から頬に伸びる。
優しく撫でられて、止まる。

下から覗く彼の顔。アッシュグレイの髪に射抜かれそうな赤い瞳。

――私、カヲルくんと、キスしたい、かも。


「ねェ、ホント大丈夫?」

「ひゃわあああ!!!」


驚いて変な奇声をあげてしまった。
カヲルくんもその声に驚いて体を引く。

わわわわ私、今、何を、考えてたの……?!


「あー……びっくりした。ほら、ドライヤーの仕方教えて?」


カヲルくんは足元に落ちていたドライヤーを持つとソファの下へと座った。
あれ?なんで下に座ってるの?と思ったらポンポンとソファを軽く叩く。

え、私がそっちに座るの?まるで私がカヲルくんにドライヤーをかけてあげるみたいだよ。


「僕にして?」


まるで、じゃなくてやって欲しかったみたい。

なんだか子供っぽい一面を垣間見てしまって、先ほどのドキドキも吹っ飛んでいってしまった。
私がソファに座るとドライヤーを渡してきたので受取ってコンセントをさす。

温かい風を出して、しっとりと濡れている髪へと当てる。


「えっと、熱くない?」

「え?何て言った?」


くるっと向かれてドライヤーを下に向けて少し顔を近づけて「熱くない?」と声を大きめにして聞くと、「問題ないよ」と返答が返ってきた。

髪を乾かして、しばらくするといつもと同じくらいにふわふわとした髪の毛になってきた。

……今思うとカヲルくんが好きな人たちには悪い事してるのかな、なんて考えてしまう。
もったいないよね、私がこんな風に彼の髪をさわったり、なでたりするのは……。


「……、の……かっ……」

「え?あ、何か言った?」


ドライヤーを下げる前にカヲルくんがこちらを向き、私がしたように手でドライヤーを押さえて下へと向ける。

少し、なんだか照れているような気がする。


「名前って柔らかくて気持ちいいんだね」

「…………」


なんだか恥ずかしいことを言われた気がする……!!
ドライヤーをカヲルくんに押し付けて「私もお風呂入ってくる!」なんて捨て台詞を吐いてバタバタと走って彼から逃げた。

そ、そんなにプニプニしてた……?
つかまれて少し赤くなっていた腕を触っていた。
ダイエットしたほうがいいのかな……。




「女の子ってあんなに柔らかいんだ……なんか、もっと触りたくなるなァ……」

なんて彼が顔を赤くしながら言っていたなんて露知らず、でした。



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