「そばにいてドキドキする?」
「ち、近かったら…」
「じゃあ、手を繋いだり、キスしたり、それ以上の事したいと思う?」
「そ!そんな事私思ってないよ!!それにそんな疚しい気持ちはおこがましいし…!」
「おこがましいって……、たかだか普通の片思いでしょ?
それをその人に押し付けたり、相手の迷惑になんなきゃいいのよ。思うのなんて勝手でしょ?卑屈すぎンのよ。」
ふんっ、とアスカちゃんは鼻をならしてイスの背もたれに肘をついた。
そ、そういうものなのかな……?ちゃんと恋というものをしたことがないからわからないや……。
というか教室の一角でこんな話をしてて大丈夫かな…、誰かに聞こえないのかな…?
「ていうか…アンタの話しを聞いてると、どうも恋とかそんな感じじゃないわね…。単にフィフスの距離が少し離れたから寂しかっただけかしら…?
でも気になる異性でアンタを選んでたから多少は気にしてると思うんだけれど……」
「うーん…私もそんな気がするんだよね…。確かにドキドキはするときはあるんだけれど、その、キスとか、はしたいとは思わない、かな…?なんか私とカヲルくんが、って想像できないんだよね。
あと、その気になる異性は…、多分異性で思いついたのが私だっただけじゃないかな…?仲は、いいほうだと思うし。」
「ふーん……なーんだ、つまんない。」
背伸びを一つすると席を立ち、自分の席へと戻っていく。
アスカちゃんにありがとうとお礼をいうと、いーわよと振り向かず手でフリフリと返事をされた。
「……恋って難しい。」
少し気が抜けて頭を机に乗せる。
ちょっと勢いがあったのか大きい音と共に痛みがおでこにきた。
……いたい、とおでこを摩る。
「ねェ、名前」
「うわ!べ、別に倒れてないよ!わざと頭を打ち付けたんだよ!」
「……それはそれで大丈夫?って思うんだけれど。」
顔を上げるとなんとも言い難い表情を浮かべたカヲルくんが机の横に立っていた。
引かれちゃったかな……
でも、自分の言葉を思い返すと確かにカヲルくんのいうとおりだった。
「ど、どうしたの?」
「中間テストが今度あるだろう?それの約束覚えてる?」
「あ、うん、一緒に勉強する話だよね?でも私でいいの?アスカちゃんとか、もっと頭の良い人に聞いた方がいいんじゃない?」
「セカンドは速攻で断られた」
―あ、私が一番じゃないんだ……?
そう思ったら、なんだか胸のあたりがモヤっとした。
「それで、名前は僕のセンセだし、勉強には関係ないことも教えてくれそうだし。」
「え、勉強を教えるだけで手一杯だよ…!それに勉強に関係ない事は私じゃなくてもおしえてくれる人沢山いるでしょ?カヲルくんって人気者だもん。」
「なんか、冷たい言い方だね、それ。」
「……え?」
今、私、何か失礼な言葉いったっけ…?
口元に手をもって考える。
……私らしくもない、なんだか、冷たい言い方。
そんな、どうして?
「まァ、いいよ。僕は名前センセの教え方が好きだから君に頼んでるんだし。で、いつどこで教えてくれるかなって思って。そろそろ勉強したいからさ。
ハーモニクステストもテスト期間の少し前からなくなるし、ちょうどいいんだよね。」
「あ、そ、そうなんだ…、ごめん…」
「なんで謝ってんの?」
不思議そうな顔をされる。
私も何に謝ったのかわからない、謝るところを誤った……何言ってんの、私。
なんだかパニックになって、とりあえず
さっきのカヲルくんの質問に答えなきゃ、と思い口を開いた。
「ほ、放課後、私の部屋とかはどうかな!」
「ん、了解。じゃあ、また後で。近くまで来たら連絡するから道を教えてね。」
すんなり了解されて、そのまま帰っていってしまった。
あれ、カヲルくん、このあとの授業出ないのかな……
っていうか私、今なんていった?
「部屋?!私の!?なんで?!落ち着く場所がいいよね、なんて脳のはしっこで考えてたから……!わー!しかも今日?!なんで私明日にしなかったの?!帰ったらすぐに掃除しなきゃ…!」
そう、私の部屋で決定してしまったのだ。
今から変えることだって出来るけれど、図書室だと今帰っていってしまったカヲルくんを
また学校に呼び出さなきゃいけないし、
かといってどこか夕方から勉強できる場所が思いつくかと言ったら
全然思いつかない……。
これは、腹をくくるしか……
そう思って、午後の授業もアレを片付けて、あっちに配置替えして……と
心ここにあらず、で受けていた。
そして、帰って私は驚愕した。
カヲルくんがくるまで、あと20分。
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