私がアスカちゃんのスカートを軽くひっぱると
アスカちゃんは驚きながら振り返ってくれた。
「な、なに…!?」
「ア、アスカちゃん、聞いてほしいことあるの……!」
「聞いてあげるから早くその手を離しなさいよ…、名前、アタシのスカートめくる気?その場合は足が出るわよ、二つの意味で。」
「あっ、ごめん…!」
パッと掴んでいたスカートを離すとアスカちゃんは前に向けていた体をこちらに向けてくれた。
今聞いてくれるみたいだけれど、ここじゃ話しづらいから、とキョロキョロしていると
「今日の放課後、アタシの家にしゅーごー。」
「!う、うん、ありがとう!」
アスカちゃんから言い出してくれた。
今日の帰りに彼女の家にいくことになり、放課後までの時間をそわそわとして過ごしていった。
そういえば今日碇くんの誕生日だっけ……?
お邪魔にもなるし、何か買ってから行こうかな。
ひっそりとお昼ご飯の時に学校から抜け出して、ハンカチを買いにいった。
多分、これなら実用性あるし、喜んでくれるよね…。
そして放課後、アスカちゃんについていくと、とあるマンションまで案内された。
碇くんはまだ帰っていないみたいで、お話するにはすごく好都合…!
「お茶飲むー?麦茶しかないんだけれど」
「あ、ううん、大丈夫!お気遣いなく!」
なんていったけれど、氷つきで私とアスカちゃんの二人分の麦茶を出してもらった。
すごくおいしそうで、暑さにやられた喉を潤したくて、結局いただきました……
「で?話って?」
「えっと、アスカちゃんって男友達とかの交友って多い方?」
「んー、少ない方じゃないかしら?ただ愛想よくしてるだけだし、エヴァパイロットだから友達作る必要ないし、同い年とか年下って皆サルに見えんのよね。サルに。」
「サルって……」
「なんでそんな事……、ははーん。さてはあのうすら笑いと何かあったな?」
ぎくり、肩が跳ねる。その反応で十分だったらしく、ニヤニヤと見つめられる。
な、なんだろう、その反応……。
「何々?友達と恋人の境目がわからないとか?フィフスなら友達じゃしないこと平気でしそうだもんね。だってアイツ、全然常識ってモンがないわよね。」
「育ってきた環境が特殊だったんじゃない……?あと、多分アスカちゃんが思い描いているような、そういう恋バナ的な話じゃないの。今日聞いてほしいことって。」
「あら?なんなの?」
拳をにぎりしめるとスカートにシワがよる。
手が少し白くなってきたところで力を弱めて、……深呼吸。
「この前、運動会があったでしょ?あの時、一位とったら買い物に付き合って欲しいって言われたんだ……」
「えー?!それってデートじゃん!アンタ達いつの間に!一番そういうのに疎そうな二人が!」
「違う違う!デートじゃないよ…っ!碇くんの誕生日プレゼントを選ぶのを手伝って欲しいって話で……だからデートじゃないよ…?」
「つまんな…ていうかフィフスがつまんない男。さすが、常識しらず。」
手元にあった麦茶をぐいぐいと飲んで、半分まで飲むとテーブルに置き、それで?と聞かれる。
ここからがアスカちゃんに聞きたいことなんだよね……。
「そのあとお互いにサプライズでプレゼントを買ってたんだけれど、そのあと…なんか距離を感じちゃって…。」
なんでそれで距離を感じるのよって顔が物語ってます……。
ベンチの件は説明が恥ずかしかったため、ゴニョゴニョと二人だけしかいないのに
小声で話す。
アスカちゃんは聞き終わって笑うわけでも、いつものように相手を小馬鹿にするようでもなく、
うーん、と唸りながら考えてくれた。
「あのフィフスがね…アタシにも何を考えてるかわからないし、そもそもアンタ達っていつも仲がいいじゃない?だからなんかきっかけがあったんじゃない?」
「け、喧嘩とかはしてないよ…?」
「ンじゃなくて、例えば名前が接触を拒否したとか……?」
「どうだろう…、お姫様だっこは2回とも拒否はしてないような…あ、でもキスしそうになったときは拒絶はしたけれど……」
がたん、と大きな音がなり、思わず目を閉じて身を縮めてしまった。
恐る恐る目を開けると、顔を赤らめたアスカちゃん。
……自分の言った言葉を頭でリフレインをし、アスカちゃんが赤くなった理由がわかった。
「ああああああんたら、キスしたの?!」
「ちがう!ちちちちがうよ!!不純異性交友はしてないからね!」
アスカちゃんの言葉にかぶせるように否定の言葉を入れる。
も、もちろんそんな関係じゃないよ…!
「ただいまー。」
「「うわああっ!」」
突然の帰宅に二人して驚く。危うく麦茶倒すところだった……!
声的に碇くんだったような気がする…、リビングへとつながる道をみていたら
やはり碇くんで、どうしたの?と見てくる。
アスカちゃんと目でどうしようとアイコンタクトを取っていると
碇くんは買い物袋からガサゴソとあさり冷蔵庫にいれるという動作を繰り返していた。
多分、私たちに気を遣って聞いてないよ、ってしているのかもしれない。
誕生日なのに……
「ていうかシンジ、アンタ、フィフスと仲いいわよね?」
「悪くはないけれど、良くもないと思うよ…?」
「私よりかはアンタの意見聞いた方がよさそうね。ちょっと来て。」
手招きをすると、少し面倒くさそうにこちらをみたけれど、手に持っていた葡萄の缶ジュースを冷蔵庫に入れてアスカちゃんの隣に立つ。
アスカちゃんは椅子をひくと、しぶしぶと碇くんは椅子に座る。
「い、碇くん、お誕生日おめでとう!これプレゼント!」
「え、もらっていいの?ありがと……呼んだのってこれのため?」
「違うわ。ねェ最近、フィフス、何か変じゃない?」
「もともと変人だろ?」
「それもそうなんだけれど…、なんていうか……あー!メンドクサ!単刀直入にいうなら名前とフィフスの間に何かあったのよ。だからフィフス何かやったんでしょ?!って話よ!」
「あ、アスカちゃん…!」
「渚と…?」
「……なんか距離あるかな、って。」
碇くんが固まってなんだか目をそらされてしまった。
ん…?なんだろう、と思ってたらアスカちゃんが碇くんの肩に腕を乗せる。
「シンジ、アンタなんか知ってンでしょ?」
「…………渚に距離をおけって言ったの、僕なんだ…。嫌われる対象になるぞって。ていうか僕との距離が近いから距離をおけっていったつもりなんだけれど、まさか苗字と距離を置くとは思わなかったよ」
「そ、そうなの…?よかった…あ、でもそんなに距離は置かれてないんだよ、普通の友達と同じくらいになっただけだし……」
「渚、よほど、苗字に嫌われたくなかったんだな…」
「ていうかちょっと待って。ここで言っていいのかわかんないんだけれど、名前は普通の距離感じゃ不満だったの……?」
今度は私が固まる番だった。
アスカちゃんが言った言葉をよく噛んで飲み込んで、そんな感じで脳みそに届かせる。
つまり、私は「友達の距離だと嫌」と言ったことになる。
そんなの無自覚に言っていて。
そんなの今初めて知って。
私がそんなおこがましい気持ちを自覚してしまったのは6月6日、
麦茶も汗ばむそんな夏の一日でした。
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