育成計画 | ナノ
「もう喉がガラガラ……」


校舎に出ている得点のボードを見ながら水飲み場にやってきた。

応援にもポイントが入るということで赤団も白団も声の限り応援をしている。
6月の始め、運動会当日。

私の種目は一つしか終わってないのに、フラフラだ。
暑さと照り返す日光でどんどん体力が奪われる。

日焼けが気になるから、日焼け止めを塗るためにも水飲み場に来たんだけれど。
結構人がいて、並んでいると前から碇くんがどいてきた。


「あ、碇くん、お疲れ様ー……」

「お疲れ様、苗字。100m走だったよね。」

「うん、三位だったけれどね。」

「次は?」

「お昼休憩の後だよ!二人三脚頑張ってくるね」

「僕も午後からだから一緒だね。お互い頑張ろうね。」


並んでいる人の邪魔になってしまうから早々と帰っていってしまった。
碇くんとは座っている場所が少し離れているから
今日は初会話。もっと話したかったなぁ……

水を飲んで、木陰で日焼け止めを塗る。


「おかあさん、来てない。忙しかったのかな。お父さんも……。」


お昼くらいにお弁当を渡しに来るという伝言は朝からもらったので
来てないことは分かっていたけれど。

お友達と食べなさい、って。私はそれで大丈夫だし、友達とも食べたかったので
全然問題ないのだけれど、ちょっと寂しかった。


「せめて勝ったっていう報告は持っていきたいなぁ…。」


得点ボードは先ほどより少し点が変わっている。
私たち赤組は未だ劣勢のままだった。

自分の場所に戻るとアスカちゃんがウォーミングアップをしていた。


「アスカちゃん、今から?」

「そーよ、見てなさい、一位とってやるんだから。一番得点高いものね、学級対抗リレー。」

「アスカちゃんは、足が長いからね…きっと一位取れるよ…!」

「アンタ……、それで一位取れても嬉しくないわよ…。ちゃんとした実力なんだから!」

「そ、そうだね!頑張って!」

「あ、あとコレ。」


ぽとん、と甘そうな白い飴玉を手に落とされた。
不思議そうにアスカちゃんと飴玉を交互に見ていると、
くるっと後ろを振り返る。


「それ、ミルクのど飴。名前、声枯れてるわよ。あと糖分補給ね。」

「うん、ありがとう!」


もしアスカちゃんがお弁当を家族と食べないのなら一緒に食べてくれるかな?
あとで誘ってみよう、とワクワクしながら飴玉の透明な袋をあけて口にいれた。

ちなみにこの後走ったアスカちゃんはもちろん一位をとっていた。



「お昼、別に一緒にいいわよ。シンジと一緒でいいなら。」

「ホント?!よかったぁ…」


お弁当を胸元でギュッとにぎりしめる。
きっとおかあさんがさっき作ってくれたのかもしれない……少し暖かった。


「あれ?名前も一緒なの?」

「あ、苗字、さっきぶり」


碇くんが帰ってきたらカヲルくんと一緒だった。
話を聞くとカヲルくんも一人だったため、碇くんが誘ったそうだ。

そういえば今日、カヲルくんと話すの初めてかも。
最近はほぼ毎日喋ってたから、なんだか不思議。


「渚とはこのあとの借り物競争で出るからね。」

「あは、どっちが先に出るんだろうね。シンジくん、どっちが一位取れるか勝負だね。」


そういってカヲルくんは碇くんの肩に腕をぐるりと回したけれど、
碇くんは眉をしかめて暑いといいながら振り払ってた。

カヲルくんの恋が実るのはまだまだ先みたいだね。


「そういえば明日休みだけれど、アンタ達なにすんの?」

「特に予定はないかな…。」

「僕も。本部にずっといるね。」

「私も……。疲れて寝てるかも…」

「えー、デートとかそんな浮ついた話ないのー?」


ふう、とため息をつかれたけれど、私にはそもそもそんなデートとかしてくれる存在はいないし……。
ちらりとカヲルくんや碇くんをみたけれど、二人はもう、黙々とご飯を食べていた。


「ちょっと!人の話聞きなさいよ…っ!」


そんな感じでその後、4人でワイワイと騒ぎながら食べて、運動会は午後の部に突入しました。

一番最初から借り物競争。自分の席からカヲルくんや碇くんが並んで行くのを
ぼーっとみていたら、カヲルくんが笑いながら碇くんの脇腹をつついていた。

なにしているんだろう、と見ていたら、隣同士に並び、そこに順番がくるのを待つかのように座りこんだ。


「あれ?あいつら一緒のレーンで走ンの?」
「そ、そうみたいだね」


さっきの勝負の会話を一緒に聞いていたアスカちゃんが不思議そうに声を上げてた。
おんなじ事を思っていたみたい…
面白そうだから、とアスカちゃんが応援席で一段高い私のところに上って私の隣に腰掛ける。

一緒のレーンで走るということは、どちらかが一位になるということ。
これは確かに見ものだ…!


順番が回っていき、ついにカヲルくんと碇くんの出番になった。

ふたりとも顔はこちらからは見えないけれど、背中で気迫が伝わってくる。
頑張ってね…!

パン、と軽い音がなり、ハードルを飛び越え、ネットをくぐり抜け、
配置された紙の場所にたどり着く。

一番最初にたどりついたのは碇くん。
次は白団で三位にカヲルくん。碇くんは固まり、キョロキョロしたあとこちらに走ってきた。
カヲルくんも首をかしげた後、碇くんに続きこちらに走ってくる。

もしかしたら碇くんをおってるのかもしれないけれど……。


「ど、どうしよ…アスカ、か苗字…どっちか」

「アタシいくわ!なんだか面白そうじゃない!内容後で確認するわよ!」

「名前ッ!」

「ひゃい!」


碇くんがアスカちゃんと一緒に二人三脚をしながら走り去ったあと
大声で名前を呼ばれて、つい姿勢を正す。
そして応援席まで急いで登ってきて、ぐいっと腕を引かれる。


「来てもらうよ、シンジくんに勝つんだ…!」

「ま、負けず嫌いだよね、カヲルくんって……」


下に降りると突然、横抱きにされる……ってまさかの2度目のお姫様だっこ……ッ?!
黄色い声援がほぼ、叫び声に変わる…、これ、私、悪目立ちしてるよお!

カヲルくんはすぐに碇くんをおっていく。


「ねェ、名前」

「な、なんでしょう…」


あまり顔を皆に見られたくないため顔を両手で隠していたら
少し弾んだ声で話しかけられる。


「これ、シンジくんに追いついたら、明日買い物に付き合ってよ。」

「え、うわ…!」


返事もする暇もなく、カヲルくんは加速する。
碇くんなんてここから少し離れてるのに……!

なんて思っていたらぐんぐんと追いついていき、ついに並んで、


ゴールテープを切ったのは私の腕だった。


『じゃあ中身を確認しまーす、えっと赤団の人の借り物は……え、…』
紙を広げていた放送部の人が一瞬固まってしまう。
どうしたんだろう、とか内容が気になる…とかで周りもざわざわとしだし、
ついに放送部が口をあけた。


『中身は、「気になる異性」、でした』


その瞬間、校舎に響き渡る歓声か悲鳴かよくわからない声が大きく上がったけれど、
私はお姫様だっこされてる時のドキドキなんかじゃ足りないくらいの心臓の音が
耳元で跳ね上がって聞こえていて、周りの音なんて全然きこえなかった。

そして彼はにこやかに私に笑いかけた。


「約束、明日、付き合ってね。」



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