「珍しい組み合わせだね。」
碇くんに声をかけられた。
珍しい…?そうかな?
と思いながら隣にいる綾波さんをみる。
綾波さんは顔をあげて碇くんを見ていた。
「運動会の種目、二人三脚。苗字さんと。」
「そうそう、それでタイミングを合わせていたんだ」
夕暮れの教室の隅でひっそりと、ただ一、二、一、二、と足踏みを繰り返していただけ、だけれど。
綾波さんを誘うのは正直、勇気がいったけれど、二つ返事で引き受けてくれた。
話してみると意外に話しやすくて、アドバイスくれたりとか、
いつもどんな本を読んでいる、等全然関係のない話もしたりと
中々に面白かった。
「なんかさァ、アンタ達、絵面的に地味なのよねー…。もっとこう、運動会にかけてます!みたいな感じでできないの?そんな隅っこでやらず運動場とかでさ」
「アスカ…、この二人がそんなテンションだったら運動会当日は雨でも降るんじゃない…?」
碇くんがそう言って苦笑いしてたけれど、まさしくその通りだと頷いた。
私はたまに熱血キャラになってみたいなんて思うけれど、
綾波さんは、どうも、想像ができない……
「グラウンド…使っていいの?」
「隅っことか裏とかの邪魔にならない所ならいいンじゃない?」
「確かに教室よりかは、いいかもね。どうする?綾波さん。」
「苗字さんに任せるわ。ただ、そちらが効率が良さそうではあると思うわ。」
「そうだね、行こうか!」
「じゃあ、僕もついて行っていい?僕、ムカデ競争にもでるから参考になればいいなって思ってさ。アスカはどうする?」
「アタシ、パスっ!ミサトに呼ばれてんのよね。じゃあ、三人で頑張ってねー。」
ひらひらと手を振りながら帰っていたアスカちゃん。
確かアスカちゃんはクラス対抗リレーと何かだった気がする…
私も走るものにでたけれど、なるべく早く終わって欲しいからもう一つの種目は100m走にした。
「じゃあ、グラウンド行きましょう。」
「そうだね。」
外に出てみると皆、同じ考えらしく、運動場は人で溢れかえっていた。
障害物競争の人たちは練習しておらず、どちらかというならクラス対抗の人たちが運動場のコースをひたすら走っているという感じ。
体育倉庫の裏をみつけて三人のカバンをそこに置く。
「結ぶわね」
「あ、ちょっとまって、ズボンはくから…うん、おっけー!」
綾波さんの手が私の足に伸びてクルッとハチマキを巻きつける。
碇くんはその場に座って私たちをみていた。
「二人三脚のコツはわからなかったけれど、どんどんスピードアップするより、一番最初に飛び出す方がいいらしいわ。」
「なるほど…あ、じゃあ碇くん、よーいドンっていって」
「よーいどん」
「早いよ…っ!綾波さんも動いちゃったじゃん…!」
よく今のタイミングで飛び出せたね…!
ちょっとよろけながら私は感心する。
「あはは、冗談冗談、じゃあいくよ。」
碇くんのよーいドンで二人同時に右足を出す。
「うわっ!」
「…っ!」
思わず尻餅をついちゃった。綾波さんはなんとか左足で踏ん張れたみたい。
……しまった、そういえばさっき私綾波さんに右足を出してスタートしようって
いったんだった…。
これ、本番じゃなくてよかった…!
あと教室だったら凄い恥ずかしかった…、アスカちゃんありがとう…!!
「……大丈夫?」
「うん、だいじょう……って渚くん?!なんでここに?!」
差し伸べられた手にビックリして思わず手を引っ込めてしまった。
てっきり綾波さんか碇くんだと思ってた…!
「君たちが三人でここの裏に入っていくのが見えて。あと、名前、戻ってる」
「か、カヲルくん…」
「渚…、お前、下手したらストーカーだぞ。」
「あは!ストーカーかもしれないよ?シンジくんの秘密の特訓みたかったんだもん」
「だもんとかいうな…!」
ケラケラと笑うカヲルくん。最近、彼はよく笑い、よく表情を顔に出すようになってきた。
その変わり具合は私には嬉しい事で。
―ちゃんと、楽しんでる。
ほっとして碇くんと言い争っているところを見ていたけれど、
何かいったあと、何故かずんずんとこちらに向かって歩いてくる碇くん。
「ごめん、苗字。そういうことだから、協力してもらえる?」
「え?何が……え…?」
綾波さんと結んでいたハチマキを解き、碇くんは自分の足と私の足を合わせて結びつける。
ま、まさか…?!
「いくぞ、苗字。渚にぎゃふんといわせてやるんだ。そっちは右足を出して。僕は左。僕が掛け声をやるからしっかり聞いてて」
「え、う、うん」
いつの間にこんな展開になったのかわからないけれど、
ぐいっと腰を引かれて思わず変な声がでて、パニックになってしまった。
うわわわ…!男子とこんなに密着したの初めて…!
しかも腰に手を……っ!
どんどんと顔に熱が集まってくる。
碇くんの「せーの」と声が聞こえて勢いのまま右足を出して、
碇くんの足に引っ張られるように左足も前へとでる。
「はやい……わかった、あんな風に走ればいいのね。」
「なんだ…、結構早いじゃん。」
二人のもとへ駆け足で戻ってくる。
碇くん、思った以上に力が強くて、すごく早かった…!
……走ったせいもあり、鼓動が全然収まらない。
まだ、腰にある手のせいが大部分だけれど。
「どうだ、渚。全然遅くなんてないだろう」
「お見逸れしました。あは、全力だったね」
「とても参考になったわ。碇くん。」
「ところでさ、近くない?二人とも」
なんだか口を尖らせてカヲルくんが私達の距離を指摘する。
碇くんは私をちらりと一瞬見て、顔を真っ赤にしたあと
謝りながら離してくれた。
私の方こそ、ご、ごめんね…。碇くんとの距離が近いからカヲルくんに怒られてしまったね……。
「大体、名前は僕とキスしそうになるときは身体を背けるのに、シンジくんは下半身がくっついてもいいの?」
「「はああ!?」」
綾波さんが凄い見てくる…!違う!違うの!
碇くんとは何もないし、カヲルくんとも何もないの!
とブンブンと顔を振る。
帰りもカヲルくんにちくちくとなんだか言われてしまった……
ごめんね、もう碇くんをとらないから……
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