朝、ふと目が覚めた。
お父さんとおかあさんがずっと話をしている。
その会話を聞きながら、私はぼんやりしながら制服へと着替えた。
自分の部屋のドアをあけ、テーブルを確認。
朝ごはんは準備されていない。
「いってきます」
二人の隣をすぎて、靴をはく。
今日は雨かな?昨日の天気はどうだったかな。
そんなことを傘を横目で見ながらドアに手をかける。
外にでると、青というより、まだ紫がかった空だった。
「当たり前だよね。だってまだこんな時間だもの……」
登校してもきっと校門はあいておらず、この少しだけ肌寒い外に立っていなければいけなくなる。
6月に入り、もしかしたら運動会の為に頑張ってる生徒がいるかもしれない、
なんて思ったけれど素直に学校に行こうとは思わなかった。
―少し、遠回りしていこう。
いつもは右に曲がる道を左へと曲がると、普段嗅いだ事のない空気に包まれた様な気分になり、少しずつ楽しくなってきて目が覚めてくる。
しばらくいったところの小さい湖にきた。
人の影もなく、湖の周りをジョギングしている人さえ見かけなかった。
ピンと張ったような空気を思いっきり吸い込み、その息を吐き出す。
「釣り、したらお魚釣れるのかな。あの岩場とかきっと魚が集まってるよね」
この湖は、化物が攻撃してできた湖。
そんな中でも必死に生きている、魚達。たくましい、と思うと同時に
少しだけ羨ましくなった。
なんでだろう、と首をかしげたけれど魚達にだってきっとわからない。
「自分で言った言葉に疑問でも感じてるのかい?」
「ひいっ!!」
急に自分じゃない声が聞こえて肩が跳ね上がってしまった。
この声は……とうるさい心臓を押さえながら後ろを振り返ると
やはり、渚くんだった。
「偶然だね。こんなところで会うとは思わなかったよ。アレ?でも名前センセってこっちだっけ?」
「あ、ううん、ちょっと早く出すぎちゃって…お散歩してたんだ。渚くんは?……というか私、もう先生じゃないよ?」
ふふ、と思わず笑ってしまった。
なんだかこの呼び方にも慣れてしまったから、変えてしまうのはもったいないけれど。
渚くんも「なんか定着してさ。」なんて返してくれた。
「僕も似たようなもの。せっかくだから一緒に学校にいかない?ぶらぶらと時間を使ってさ。」
「そうだね、今度は私がジュースおごるね!」
「まだ覚えてたのかい?それ。いいよ、別に」
くるっと方向転換した渚くんの背中を追うために置いていたカバンをとり彼の後を追う。
「雲が多くなってきたから幾分か朝は寒いね。」
「そうだね、今はセカンドインパクト前なら梅雨だから影響うけて雨雲が多くなってきてるのかもね……季節、っていいよね。私たちが生まれる前は桜とか咲いてたんだって!」
「桜……、ああ、あのピンクの花びらのだね。」
「私も写真とか、お母さんからしか聞いた事がないんだけれどね。人工雪みたいに人工で作れたりしないのかな?」
「作れるんじゃないかな?僕らの知らないところで世界は動いているからね。」
渚くんがピタリと足を止める。
視線の先を追うと私が言っていた自動販売機がある。
休む?と聞かれたので頷く。
「私、桜は見てみたいんだよね。お母さんがつけようとしてくれた私の名前の候補に『桜』ってあったんだよ。」
「へー、今の名前の名前もいいけれどね。……今のお母さんが言ってくれたのかい?」
―固まってしまった。
なんで、それを知ってるの?私、誰にも言ってないのに。
渚くんは自動販売機の目の前で立ち止まり、顔だけ振り向く。
彼の目には私はどう映っているんだろう。
「びっくりしたって顔してる。あのクラス不思議だとは思わないのかい?」
「私たちが通ってる、クラス…?」
「そ、親が病気で死んでいたり、生死不明だったり、殺されていたり……どれにせよ、親が亡くなっているだろう?」
「……か、考えた事なかった…。そういえば…、確かに。じゃ、じゃあ渚くんのご両親も…?」
「僕は生まれ落ちたから最初からいないよ」
はい、と缶ジュースを渡された。
フルーツジュースで朝ごはんにあう!とコピーでかいてある。
両親がいないってどういう事だろう……?
と考えていたら渚くんがジュースを持ったまま歩き出す。
携帯を確認してみると既に学校に向うような時間になっていた。
「な、渚くん、さっきの……」
「あ、そうだ。その渚くんってやめない?僕も名前って呼んでるんだしカヲルって呼んでよ。」
「へ、え…、あ、あの、かを、カヲルくん…」
「呼び捨てでいいのに。」
「無理無理無理…!」
初めて下の名前をちゃんと呼んだのと、『センセ』無しで
呼ばれた事に脳内がオーバーヒートしてしまう。
さらにぐっと顔を近づけられ……え?
「なにしてんの?早くいくよ?」
「うわわわ、また顔近いよ!キスする距離だよ!これ!」
「しないよ?」
「したらもっとびっくりしてたよ!!」
なんて、デジャブな会話をする。
二人で以前の会話を思い出し、少し笑う。
「なに、道端で二人して笑ってんのよ、傍からみるとシュールよ?」
「あ、惣流さん、おはよ」
「だから、アスカでいいっつーの。おはよ。なんの話してたの?」
「いや、デジャブだなーって思ってたんだー。」
なぎ、じゃなくてカヲルくんも同じ風に思ってくれてたかはわからないけれど。
というか皆、名前呼びにこだわるんだね。
「そういえば名前ってその飲み物好きだった?」
「うん、朝から炭酸とかよりフルーツジュースの方が……って、あ、今度は私がおごるはずだったのに、か、カヲルくんに出してもらったね」
「あは、気にしすぎだよ。」
「……あれ、そういえば惣流さ……え、どうしたの?」
中々会話に入ってこないと思ったら、随分と後ろにいてびっくりした。
しかも何故かわなわなと震えている…?
「あ、アンタ達、いつの間にファーストネームで呼びあう仲になってんの……?!」
「ついさっき?」
「か、かな?もうちょっと前からな気がするけれど…」
「あぁ、名前センセって?」
「あはは、そうそう…」
その後、惣流さんが私達が付き合ってると勘違いして、大騒ぎしてました。
そういえばどんな仲なのかは確かに言ってなかったね。
渚くんに余計な迷惑をかけてしまいました、ごめんね。
15