育成計画 | ナノ
「せんせーって新しいキラキラしたせんせーのカノジョ?」


舌っ足らずの口調で少女から喋りかけられた。

外で年中さんと年長さんとで遊んでいる。その風景を「微笑ましいなあ」って見ていたら、
少女が駆け寄ってきて、そして冒頭へと至る。


「キラキラって……もしかして、渚く…じゃなくて渚先生?」


『渚先生って呼んでよかったかな』とちょっと気恥ずかしくなる。
その、渚先生は他の園児たちと仲良く砂場でおままごとをしているみたい。

渚くん、年上の先生に、年下の園児からって……すっごいモテモテだね。


「ううん、あの先生とはただのクラスメイトだよ。」

「くらすめいとってなあに?」

「あ、えーっと……お友達ってことだよ。」

「じゃあ、あたしがせんせーと結婚しても怒らないよね!せんせー!あたしのおむこさんになってー!」


元気よく走り去られてしまった。
展開の早さともう結婚の事を考えている気の早い少女に目を白黒させていると
渚くんがこちらをみた。

多分、私の方から走ってきたから何か言ったのかと思って見たのかも。


「な、なにも言ってないよ?!」

「何が?」


―ただ、目があっただけでした。すっごい恥ずかしい。

渚くんは園児に呼ばれておままごとを続ける。
どうやら渚くんはお父さん役をさせられているみたい。

先ほどの少女も渚くんの恋人になりたかったみたいで
渚くんの愛人という設定になっている。

更にペットだった男の子が渚くんの弟になりたかったらしく、
「じゃあ、せんせーの弟で愛人が好きってことね!」
と昼ドラのような複雑設定になってきた。


「あ、名前せんせーもおままごとするー?せんせーは…じゃあカヲルせんせーのお母さんで鬼姑で!」


―更に複雑設定に…!


よほど、私がお母さんで鬼姑という設定がツボったのか
肩を震わせながら笑う渚くん。


「ダメ!名前せんせーはボクと遊ぶの!」


ぐいっとズボンを引っ張られる。
う、下がっちゃう……!

引っ張られた先にはブランコがあった。
ブランコにきた瞬間に皆から背中を押してと迫られる。
特に男の子から。

うん、私も一応、モテモテ!



しばらく遊んでいると少し疲れてきた。
他の先生も園児達を見守るように少し離れた場所で立っているので
私も見習って、観察していた。

すると渚くんがよってきた。


「お疲れ様。」

「うん、そっちもね。知らなかったよ、子どもってこんなパワフルなんだね。」

「だね…。私もう、くたくただよ…腕が疲れちゃった…」


腕を振りながら苦笑いしていると渚くんがじっと見つめてきた。
少したじろぐ。


「そういえばさっき、君の近くに居た子。僕のお嫁さんになりたいって言ってた子が言ってたんだけれどさ。」

「…あ、あの子……どうかしたの?」

「友達なのに、名前で呼んでないの?ってさ。…だからさ、呼んでいい?名前で。僕ら友達だろう?」

「へ、……へ?!う、うん!!いい、いいよ!」

「あは、なんでそんなに焦ってンのさ。じゃあ、…名前センセ。」


ぶわっと恥ずかしさで顔に熱が上がってきた。
……でも、先生はつくんだね。


「え、えっと、はい、か、……カヲル、先生。」


どこを見ていいかわからないから地面を見てしまう。

―これ、職場体験が終わったら先生が取れるのかな……?

傍から見ると私、挙動不審なんだろうなぁって思っていたら
少しぶっきらぼうに「なんかムズムズする…」と頭の上から聞こえてきた。

顔を上げると頭をガシガシとかく渚くん。
その顔はなんだか照れくさそうな顔をしているように、私には見えた。


「せんせー!名前せんせー!」


さきほど、ブランコの場所に居た男の子が私の名前を呼びながら
走ってきた。
すごい息を切らしながら。どうしたんだろう、急いで……何かあったのかな?


「どうしたの?どこか怪我した?」

「ううん!せんせー、しゃがんでー!」

「え、なになに?」


ニコニコとしていたから怪我はしていないようだ。
何かくれるのかな、と不思議に思いながらしゃがむと……


「ひぅ?!」

「せんせーのおっぱい!」


おもいっきり胸を掴まれました……!
私の胸を…!

しかもおもいっきりだったため、すごく痛い……


「あはは!おっぱいおっぱい!」

「もう!こら!おっぱいはダメっていったでしょ!」


渚くん担当の先生が男の子を追いかける。
が、なかなかに早い逃げ足ですぐに遊具のトンネルの下へと入っていった。
胸が痛みでズキズキとしているので少し撫でる。


「……渚くん、その視線が痛いよ……」

「あのさ、今のってリリン流のコミュニケーションの取り方?」


とんでもない誤解をしている…!違うよ!違うに決まっているよ!
ばっと立ち上がって渚くんの前に立つ。


「渚くん!……貴方が今のをやったら犯罪だからね?」

「そーなの?」

「そうだよ!当たり前の事だからね!絶対ダメだよ!」

「ふーん、わかった。」


……こうして一日目の職場体験は最後まで疲れを残して終了した。
渚くん、園児から変な事、聞いてないかな…
純粋に受け止めちゃうんだから……


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あとがきをmemoにて公開





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