育成計画 | ナノ
「はい、じゃあ今日と明日、新しい先生がきてるから皆よろしくねー?」

「苗字です、よろしくお願いします。」

「せんせー、おなまえは?」


朝の体操をして、渚くんと別れてから年中さんのクラスにきて挨拶。

元気そうな男の子の声が聞こえてきた。
私宛の質問だよね?お名前?あ、そっか、名前か。

渚くんとも同じやりとりした気がする。


「名前は名前って言うんだよ。よろしくね。」


大きな返事されて、今日は頑張ろう、という気持ちにさせられる。

先生が皆の名前を呼んでいき、いよいよ私のお手伝いが始まる……
といっても私、実は幼稚園の流れを覚えていなくて、どうしよう、と思っていたら
先生が画用紙を私に渡してくれた。


「苗字さん、何をすればいいかは私に聞いてね?はい、これ、みんなにくばって?」

「あ、はい、すみません……。」


そっか、受身じゃダメだよね、お仕事だから待ってちゃダメなんだ。
よし、と気合をいれて画用紙を子供達に配る。


「せんせー?今日何をかくの?」

「ん?そうだねー、何描こうか?先生も知らないから、あっちの先生に聞いてみようか?」

「うーん、じゃあ『すきなもの』を描いてみようか?あ、今日入ってきた先生を描くのもいいよー。」

「ええ?!」

「じゃあ、名前せんせーかく!」


嬉しいけれど、一斉にこちらに視線が集まる。
うう、動けない、髪の毛変じゃないかな、どんなポーズとってたらいいんだろう、
ていうか私がモデルってもったいなくない?皆もっと好きなもの描いていいんだよ……?!

と思っていたらいつの間にかおえかきの時間は終わっていた。

先生を描いたから先生にあげるね、と何人から画用紙をしゃがみながら受け取る。
もらった瞬間ふわっとクレヨンの匂いがした。すごく、懐かしい香り。

中身をみてみると、小さい子が頑張ってかいたような絵がかいてあった。
そこには私やその子が書いてあったり、外で遊んでいるようなイラストだったりで
実は髪型とかポーズとかどうでもよかったみたい。

お礼を言って、子供達の絵の説明を聞きながら、どこに飾ろうかなと考えていたら
先生が私の名前を呼んだ。


「苗字さん、お昼だよ。さっき荷物置きに行った場所で食べておいで」

「あ、はい!」


もう一度、私のまわりにいた子供達にお礼を言ってから立ち上がり、
さっきの部屋まで途中で園児に挨拶しながら
色んな組があるんだなぁとちらちらと中を見て、ゆったりと歩く。

着替えた部屋を開けると渚くんがすでにパンを食べていた。


「遅かったね?先生に捕まってたの?」

「あ、ううん、色んなところ見てたんだ。渚くんはどんな感じ?」

「粘土遊びしてた。僕も暇だし一緒にしようかなって思ったら先生に捕まってさ。質問攻め。僕の事聞いて何の得になるんだろうね?」

「え、質問?どんな事?」

「どこの中学やら彼女いるやら、なんか幼稚園とは関係なかったことだったよ」


……それ、渚くん、所謂ロックオンってやつじゃないのかな?
とは口にださず。カッコイイもんね、渚くん。きっと大人になればもっともっとかっこよくなる。


「年上好きなのかな…」
「え?」


お弁当を出しながら考え事をしていたら口に出していたらしく渚くんに聞き返されてしまった。
本人に聞かれてしまった……!


「い、いや、あの、渚くんって年上の人が好きなのかなーって」

「なんでその話になるのさ?……好みの話でいうなら僕は多分好きになったヒトが『好き』だろうから、歳は関係ないんじゃないかな。わかんないけど」


もぐもぐとパンを貪りだしたので、私もお弁当に手をつける。
確かに前に好きが何かわからないって言ってたからね……

しばらく、その場に沈黙が流れて、私が耐え切れず話を切り出す。


「そういえば、私幼稚園、好きだな。職場体験、幼稚園でよかったと思う。楽しいかなって思ってたら、嬉しいことがあったり、名前先生って呼んでもらったり。
私、子供好きかもしれない。」

「……」


黙って聞いててくれた渚くんが手を口元に持っていき、考えているような感じ。
どうしたんだろうと渚くんを見つめていると、うん、とひとつ頷いた。


「今想像してみたんだけれど、確かに子ども、似合うね。
奥さんになった時の想像してみたんだけれど、子ども抱えておかえりなさいって言ってくれるのを安易に想像できたよ。」

「……え?!言ってくれたって、渚くんの奥さんって事で想像したの?!」

「あ、駄目だった?そっちの方が想像しやすいし。」

「だ、ダメじゃないけれど……」


なんだかこの一瞬で渚くんの顔見て話せなくなっちゃったや。
でも、そんな風に思ってくれるってことは私も恋愛対象であるんだなって思うと
結構嬉しかったり。

なんだろう、今日嬉しいことばっかり。


「ごちそうさま。」

「あれ、もう食べ終わったの?ってもうこんな時間なんだ!わ、急いで食べないと……!」

「手伝ってあげようか?おいしそうだし、僕も少し味見したい」


悪戯っぽく笑われてしまった。なんだか可愛い。
私はお弁当の蓋におかずをひとつずつあげた。

お箸がないから手でつまみ、ぱくぱくと食べて
一瞬でなくなってしまった蓋に「ごちそうさまでした」と渚くんは行儀よく手を合わせた。

午後も頑張ろうね、と言ったらいつものへらっとした笑顔で「そっちも頑張ってね」と返された。





12