育成計画 | ナノ
園児が来るちょっと前に先生たちに挨拶しに来ました。
すごく、緊張しながらご挨拶です。


「えっと、苗字名前ですっ、2日間よろしくお願いいたします!」

「渚カヲル。よろしくおねがいします。」


先生たちからパチパチと拍手を送られる。
周りを見てみるとお母さんくらいの年齢くらいの先生たちだと思ってたけれど、
全然若くて綺麗な先生ばっかりだった。

それにしても、渚くん、すごくあっさりな挨拶だったね……
大丈夫なのかな……


「じゃあ渚くん、苗字さんに今日の流れと、してもらいたいことを大まかに伝えるわね。
もし手が空いたら他の先生に『なにかありませんか?』って聞いてね。
朝は一緒に体操をするの。体操が終わったら、苗字さんは私のお手伝いね。
渚くんはあっちの若い先生ね。」


二人してそちらを向くとすごく上機嫌な先生がニコニコしながら手を振っていた。
渚くんはなんだか興味なさそうだけれど…、本当に幼稚園で良かったのかな……。


「あっちの先生は年長さんの先生。私は年中さんね。元気いっぱいだから気をつけるのよ?朝の体操までは好きにしてていいわよ。制服じゃ動きづらいだろうし、着替えてきていいわよ。着替え場所と荷物置き場はこっちね」


先生についていき、階段を上って空き部屋の様な場所に通された。

先生が出て行くと渚くんはカバンを机の上において
中をガサゴソと調べていたと思ったら、着替えを取り出した。


「え、ちょっと、渚くん!?もしかして今着替えるの?!」

「そのつもりだけれど、苗字サンは着替えないの?」

「違うよ!わ、私、部屋の外に出るから着替え終わったら呼んで…!」

「……あぁ、なるほど。気にしすぎじゃないの?」

「普通だよ!私が着替える時も出てってね?!」


あ!また渚くんがキョトンってしてる…!
なんか渚くんってズレてるよね…。

私は急いで部屋から出た。
ドアを閉めて、深呼吸。水泳の時も上半身裸だけれど、それとこれとは話が別だよね…

……渚くん、私の着替えの時、ちゃんと部屋からでるよね……


「終わったよ」

「ひい!ははは早かったね!」

「まーね。待たせちゃ悪いしさ。」


ドアを開けて、私の前に立って止まる。
あ、よかった。ここで待ってくれるんだね。

小走りで部屋に入って扉を閉める。
私も渚くんを待たせたら悪いから急いで着替えないと…!


「ごめんね、お待たせしました!」

「別にま………、それ、服、前後ろ逆じゃない?」

「?!あ、本当だ!」

「僕、まだ待っとくよ。」

「いいよ!これくらいなら…!」


袖だけ腕を抜いて、ぐるりと回して、また腕を通す。

その一連を見てた渚くんが何故か吹き出した……え?私今何かした?
そのまま顔を逸らして手で口を押さえてるけれど、今笑ってるよね?


「な、なにがおかしいの…?」

「い、いや、なんかイモムシみたいだったから…」

「イモムシ?……女子にその例えは失礼だよ……」

「ゴメン、ゴメン。」


謝りながら、彼は振り返った。目尻を下げて、
すごく珍しいタイプの渚くんの笑い顔。
いつもなら口元を上げて笑うだけだったけれど、今の笑い方は
いつかのような、安心するような、笑い顔。

渚くんは部屋に入ってくると窓際まで歩いていく。

多分、外には園児が来て、元気に遊んでいるはず。
それをみているのかな?

―あ、そういえば聞くなら今かな?


「ねぇ、渚くん、どうして職場体験、幼稚園にしたの?」


渚くんは子供に興味津々、というわけじゃなそうだし、
幼稚園に憧れてるってわけでもなさそうだし。

かといって私がここにくるから渚くんもきた!とか思いたいけれど、思いたくないし。
なんだか自分が恥ずかしいから。


「……なんとなく。これから生き抜いていくリリンを見てみたくてね。」


…残念な気持ち、8割。ちょっと、私が理由でっていって欲しかったな、って。


「ああ、でも、保育園でも小学校でもなく幼稚園にしたのは君が居たからだよ?」


不意打ちで言われて、私の残念だと思う気持ちはどこかにすっ飛んでいった。
きっと、私顔が赤い。
言葉が思いつかなくて「あ」とか「う」とかしか出てこない口。

渚くんが、また吹き出した。

私、こんなんじゃ、今日さえ持たないかもしれない。



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