育成計画 | ナノ
本日、晴天。スポーツテスト日和です。

運動神経は並の並くらいなので早く今日が終わらないかな、と思うくらいで。

女子は握力、上体起こし、えっと、なんか座って前にぐいーっと箱を押し出すやつと…名前はなんだっけ…あ、前屈と、反復横とびを体育館で。

男子は外にあるものをやっていくらしい。

反復横とびを名簿順にやっていくことになったんだけれど、綾波さんが大人しそうにみえて
俊敏に動いていたからみんなが口をあけて見ていた事が今日のハイライトだと思う。
ちなみに惣流さんは何故か綾波さんに対抗しようとしてたけれど、反復横とびだけ負けてたみたい。

外にいき、最後の持久走の準備をしていたらクラスの男子が立ち幅とびをしていた。


―渚くん、すごい目立つな……。キラキラしてるし……。


後ろ姿しか見えないけれど、遠目でもすぐわかる彼の姿。

光を浴びて、髪の毛がキラキラしてる。
ぐいっと汗を拭う姿も男の子っぽくて少しドキドキした。


「名前、アンタ誰か好きな人でもいんの?」


後ろからの聞こえた声に思わず小さく叫んでしまった。

慌てて後ろを振り返ってみると惣流さんがニヤニヤとして立っていた。

この前の歓迎会の時以来、仲良くさせてもらってるんだよね。すっごい嬉しい。


「ち、違うよ!ほら、渚くん、彼、なんか銀の髪してるし遠くからでも目立つなぁって思ってたんだよ!」

「あー、そうね。叩いたら軽い音しようよね。フィフスの頭って。」

「叩いちゃダメだよ?!一回叩くと頭の細胞がたくさん死んじゃうんだよ?!」

「げー、その迷信、信じちゃってんの?アレは嘘よ。デタラメ。そんだけで死んじゃったら頭蓋骨なんのためにあんのよ。あ、ほら、フィフス飛ぶわよ?」


目を向けると渚くんが砂場の前に立っていた。

自分のタイミングを見計らって、前に飛ぶと綺麗な弧を描き、砂を撒き散らすことなく着地した。思わずみんなが感嘆のため息が漏れる。

渚くんが砂場から歩いて出てきて、こちらに向かってピースをしてきた。


「あれ、アンタにじゃない?」

「え、見えてるのかな?私じゃなくて惣流さんじゃない?」


一応手を振り返す。これ私じゃなかったら恥ずかしいなぁ。

渚くんや惣流さんのように遠くからみても目立つ様な出で立ちをしていないから
多分私じゃないと思うんだけれど……

ぼーっとしていたら「てぃ!」と惣流さんに膝かっくんをされた。


「わ!なな、何するの?!」

「名前、また呼び方が戻ってるわよ。アスカでいいって言ったでしょ?はい、リピート、アフター、ミー!ア・ス・カ!」

「あ、アスカ、ちゃん……」

「ったく、ちゃんいらないって言ってるのに…。ほら、じゃあ持久走行くわよ。」

「えへへ、はーい」


持久走ではトップはアスカちゃんだった。

アスカちゃんもキラキラしててとっても綺麗。あんな人になりたい、といつも思う。





「……渚くん!」


以前会った自販機の前を通り過ぎようとする目立つ後ろ姿を見かけた。

彼はくるりとこちらを向くとへらりと笑って立ち止まってくれた。


「二度目だね、ここで会うの。またおごってくれるの?」

「え、えー……あ、あれはお礼だったし……飲みたいの?」

「冗談だよ。別に奢らなくていいよ。」


そう言いながら彼は千円札を入れてお茶とスポーツドリンクをかっていた。

相変わらず2本飲むんだなぁっと彼の行動を見ていたら目の前に2本差し出された。


「あげる。どっちがいい?」

「え、いいの?でもこの前おごった分がチャラになっちゃうよ……!もう一回私が奢らないといけなくなっちゃう……!」

「あは、何それ。気にしすぎじゃない?」


彼は私の手の中にお茶をストンと落とすと以前座ったベンチに腰掛け、座ったら?と促される。
もちろん、行く先は彼の隣に。

私が隣に座ると渚くんは拳をつくり、何故か私のふとももと彼のふとももの間に入れる。

―あ、ちょうど一個分だ。

彼の行動がよく分からずジッと見ていたら、その拳を上げて拳を指差した。


「君は以前、僕と座った時、この距離ですごく緊張してた。今日は同じ距離なのに萎縮してないし、むしろ普段接する時と同じくらいだ。
これはなんで?」


彼の質問にポカンとしてしまった。

え、何故?何故……それは……


「君は僕に心を開いたということなのかな?」


顔を覗き込まれ、また私の時が止まる。


「うっわ、また近いよ!!!」

「あ、離れた。なんだ、まだ君は僕に壁を作ってるんだね。ちょっとここに座ってそれを確かめたかったんだよね。」


渚くんはベンチを離れるとスタスタと歩いて行ってしまう。

どうしよう、また、傷つけた……!


「な、渚くん!違うの!私、あなたのこと、すごく大事な友達だと思ってるよ!
歓迎会の時はごめんなさい!極端に距離をとってしまって!
あと、今日はかっこよかったよ!!」


少し遠くなった彼の背中に届くように叫びかける。

彼はあったとき同様、少し立ち止まり私の方を振り向いて、
そしてピースサインをした。

スポーツテストの時は遠く見えなかった彼の顔だったけれど、
今の彼の顔はただただ嬉しいという感じを全面にだした様な顔だった。


今日、渚くんと拳一個分くらいは近づけた気がする。



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