遊園地いかへん?と誘われて、連れてこられたのは完全な廃墟と化した遊園地だった。
 あたりに人の気配は全くなく、晴れているのにあたりの雰囲気はなんとなく暗い。入り口の、マスコットキャラクターが描かれていたらしい壁は塗装が剥げ、茶色にさびておどろおどろしくなっている。
 おかしいとは思っていたのだ。誰にいうでもなく言い訳をしてみる。
 言われたときは某夢の国みたいな場所を想像していたので、絶対いやだ、と突っぱねていたのだが、今吉が、花宮と行きたい、とめちゃくちゃにごねたので、移動賃も含めてすべての代金を今吉が持つという条件でしぶしぶ了承した。遊園地に行きたいというのも、人混みで俺がいやそうな顔をしているのがみたい、とかいう気持ち悪い性癖でも発動させたのかと思っていた。
 ら、これだ。まさか遊園地といわれて廃遊園地につれてこられることは思っても見なかった。当の今吉はというと「廃墟ってなんやわくわくするよな!」とこちらをかまうことなく勝手にテンションをあげている。タノシソーデヨカッタデスネ。
 まあおかげで、ずっと考えては憂鬱だった、人波に揉まれることも、アトラクションに長時間待たされることも、男二人で遊園地なんてという周囲からの好奇の目にさらされるということもないのでよかったのだが。しかし、圧倒的に腑に落ちない。そうなら最初からそう言えよ。いったところでいかねーけどよ。
 入退場口のゲートには鎖が巻かれており、一応のところ閉鎖となっているようだ。今吉はそれをなんのためらいもなく跨いでいく。ここまで来たからには付き合ってやろう。俺もそれにならって跨いで中に入った。
 中は、想像以上に寂しいものだった。
 人気のない遊園地はどこか色あせていて、実際よりも遙かに広いものに思えたし、何もないような虚無感を感じる。音も色も、何もない場所。とてつもない違和感。
 今吉はその中をためらいなく進んでいくので、俺もそれに従ってついていく。
 アトラクションのコーヒーカップは、塗装が風雨にさらされた結果縁がぼろぼろで、中は枯れ葉が落ちていたり、水が上っていたりしていた。メリーゴーランドは全体的に色が落ちていて、馬は目の塗装が剥げ、鐙と背中が同化していたり、ひどいところは足が折れていたりしていた。今吉はそれに対して「突然回り出したりしたら怖いなぁ」とか「なんか呪われそうやな」となんとなくわくわくした感じで言っていた。
 そのくせお化け屋敷の跡地にくると外だけ見て立ち去ろうとするので、中に入らないのかと聞いたら「本物でそうだから嫌や」と返してくるのだからわからない。俺としてはそれを聞いて入りたくなったのだが、中を覗いてみると真っ暗で何も見えず、懐中電灯などもないのに入っていく気にはとてもなれなかったのであきらめた。チッ。
 ほかにも看板も何もかも取り外された店の跡、ジェットコースターの跡地、回転ブランコなどを見て回った。それについて二言三言話すだけで、それ以外に会話はない。
 必然的に訪れるのはひたすらな無音。たまに会話すると、お互いの声がはっきりと聞こえすぎて、この世界には俺たち以外何も存在していないのではないかとすら思える。
 そうして園内を歩き回って、今吉が足を止めたのは観覧車の前だった。もとはピンク色だったらしい、さび付いた観覧車。
「なぁ、花宮」
 静寂の中で、今吉は観覧車を見つめながらつぶやいた。太陽のせいで顔はよく見えない。俺は今吉のほうから視線をはずして、同じように観覧車をみた。
「もし、お前が女やったら普通の遊園地に行って、ジェットコースターとか、コーヒーカップとか、のったんかな。お前のことやからずっと不機嫌かもしれんけど。で、その最後に観覧車に乗って、その中でプロポーズ、なんてベタなことしたんかな。」
 今吉の言葉をただ、聞いた。さび付いた観覧車はぴたりと止まっている。これが動き出すことはあり得ないし、それどころかいつかは取り壊されてしまうのだろう。
「それで、そのまま結婚して、式挙げて、子どもができて、いろんなことで喧嘩しながら、子どもが大きくなって、ワシらもおっさんおばちゃんになっていったんかな。」
 ふざけたことをいっているな、と思ったが、何もいわなかった。今吉がいいたいのはそこじゃないことはわかっていたからだ。いつも自分の話をするときに結論を先にいわずに、回りくどいことをするのは今吉の癖だとよくわかっている。その予想通り、でも、と今吉は続けた。
「でも、そんな未来はありえん。ただのたらればやし、ホンマにそうやったら関わってすらなかったかもな。一番重要なのは、この世界のワシがおまえを一番好きってことや」
 今吉がこちらを向いた。俺はそれを横目で見つめる。いつもは開いているのだかわからない眼鏡の奥の瞳が見えた。
「花宮が、一番好きです。これからも、そのずっと先も、一生一緒にいてください。」
 そういって、今吉は頭を下げた。俺は横目から体全体を今吉に向けて、すぅと一度大きく息を吸い込んでから言った。
「重ッ!」
 静かな空間に、俺の声が響いた。ちょっと気持ちがいい。今吉は顔を上げるとちょっと困ったように眉を下げて、結構真面目に考えたんやけど、といった。うん、しってる。俺は少しだけ笑う。
「でも、悪くない。」
 そう、悪くない。
 俺たちはよくにている。この世に絶対なんてことがないことも、理不尽も不幸もありふれていることをよく知っている。なのに一生なんて、嘘っぽい言葉は使わないだろう。少なくとも俺は使わない。でも、だからこそ、その感じは、悪くない。コイツに一生なんて言葉を使わせた優越と、それとは全く別の、少しのさみしさ。
「アンタがそーやって俺に執着してんの、マジ笑える。だから、ゆるしてあげます。一生、一緒にいてもいいですよ。」
 そういってから、今吉の唇に自分のを重ねた。離れると、今吉がきょとんとした顔をしていたので、笑いながらアホ面、と指さす。すると今吉は、しゃーないやろ、びっくりしたんやもん、と唇を尖らせながらいった。べつにかわいくはない。でもなんかおかしくて、おもわず笑った。


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