「あー、なんか、ふわふわしてきた」
「…なんでそんなに酔ってるんですか」
 ちょっと席をたった隙に、なぜだか顔が赤くしてへらへらと笑っている火神くんに、ボクは思わず眉をしかめた。
 その原因と思われる物は、あちらこちらに散らばるカラフルな缶。それを一つを手にとって缶に表示されている文字を読むと『アルコール度数 5%』 …。それに、缶が散らばっているのに、中にあるはずの液体が全く零れていないということは、残らずすべて飲んでしまったということだろう。
「火神くん!君、なんでお酒を飲んでるんですか!」
 思わずそう怒ると、火神くんはうーん、とよく分からないとでも言うように首をかしげた。それにボクは、そうしたいのはこっちの方だとため息をついた。
「もう、なんか、いいです…」
 とりあえずその辺に散らばった缶を拾い集める。どうせ今彼に何を言ったところで、なんの意味もないでだろうから、文句は明日言うことにした。
 まったく、明日が休みだったからいいものを、そうじゃなかったらどうするつもりだったのだろうか…。
 やれやれという具合に缶を拾い集めていると、何故かいままで大人しくしていた火神くんが、突然口を開いた。
「おい、黒子、おまえ、なんでねこみみついてんの?」
 は?と思わず声が出た。缶を拾う手を止めて、火神くんをみつめる。そして、あまりに真剣な表情でそういってきたので、思わず自分の頭を触った。
 おかしなところなんて無いし、もちろん、ねこみみなんてついてない。いや、そもそもどうやったってつかない。
「それって幻覚じゃないんですか」
 冷静にそう答えると、火神くんは幻覚なんかじゃねえって、とムキになって反論してきた。ボクはそれに、いいえ幻覚です、と思わず張り合う。
 そうしていると、ねこみみがついてるついてないの、謎の応酬になった。
「ついてないって言ってるじゃないですか!」
「いや、ついてるんだって!お前の髪と同じ色のねこみみが!」
「だから、ついてないんですって!冷静になってください、普通に考えて、ついてたら恐いでしょう?!」
 そこまで言ったところで火神くんは少し唸ったあと、何を思ったのかボクの手をぐいっと引っ張った。それにボクはうわっ、と情けない声が出て、火神くんの腕の中へ倒れ込む形になった。
 倒れた瞬間思わずつぶった目を開けると、火神くんがじっと僕を見つめていた。するとなぜだかカッと身体が熱くなって、大きく心臓が脈打った。
 そのままずっとボクを見つめていた火神くんが、突然手をボクの頭の上に伸ばした。怪訝そうな顔をしたあと、ぐしゃぐしゃと髪を混ぜるように頭を触った。その行動にボクの頭の中でハテナマークが飛ぶ。
「…わりぃ、ねこみみなかったわ」
 申しわけなさそうにそういう火神くんに、そういうことかと納得したのに、何故か少し不満がっている自分がいた。
 だから言ったじゃないですかと言いたかったのに、口が渇いて呟く様にしか言えなかった。たぶん、聞こえなかっただろう。
「もう、離してもらってもいいですか」
 やっとのことで搾り出した声でそう告げると、火神くんは離すどころかボクをぎゅっと抱きしめた。突然強く抱きしめられて、一瞬心臓が止まってしまったような感覚がした。アルコールのせいなのか身体が熱い火神くんは、ぽんぽんと頭を軽く叩くようにボクの頭を撫でた。
「お前、すげえ抱き心地がいい…」
「そんなの、うれしくないですから、」
 離してくださいと、さして抵抗もせずそういうと、力が緩むどころかさっきよりも強い力で抱きしめられた。また心臓が大きく脈打つ。
「だから、俺、このままねるから」
 ねむいと一言言われて、そのまま眠られた。安らかな寝息がすぐ近くで聞こえる。
 眠いじゃなくて寝てるじゃないですか。そう心の中で突っ込んだ後、本当にこのままなのかとまたため息をついた。眠っている癖に腕の力は相変わらずさっきと変わらないので、身動き一つ取れない。
 こんなところで寝て、風邪ひいても知らないし、ボクがひいたら火神くんのせいなんですからね。
 心の中で呟いて、まだ大きく脈打っている心臓のせいでしばらく眠れそうにないけれど、そっと目を閉じた。



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