「霧野先輩って、髪、きれーですよね」
 ホント、女みたいだ、と狩屋が呟く声が聞こえた。いや、聞こえるように言ったのだろう。それに思わずタオルで髪を拭く手を止めた。狩屋を見ると、すでに髪を乾かし終えているようで、椅子に座りながら、指で髪をぐるぐるといじっていた。
「だからなんだ、だから」
 どうせ、髪を気にしなくちゃならないなんて女は大変ですねー、とか言うに違いない。何と言ってきてもスルーを決め込もうと思ったら、羨ましいなあって思って、と普段の狩屋からは想像もつかないような言葉を発した。それに思わず狩屋に近づいて行って額を触る。
「…?なんですか、先輩」
「…熱は無いみたいだな」
 俺がそういうと、失礼な!といって狩屋は俺の手を邪険に払った。ぶすっとしながら狩屋は俺を見つめる。その姿はさながら不機嫌な猫のようだ。
「悪い。あまりにもらしくないなと思って」
「先輩、どんだけ正直なんですか」
 そりゃあ、自分でも分かってますけど、と狩屋は目を逸らした。ほう、と俺は目を細める。珍しく、狩屋が照れている。
「ところで、なんで俺の髪が羨ましいんだ?」
 どうせなら深く聞いてやろうと思って、狩屋の向かいに座った。狩屋は少し顔をしかめた後、小さな声で話しはじめた。
「俺の髪って、跳ねてるでしょ。色もそんなに綺麗じゃないし」
 これでも結構撫で付けてる方なんですよと、指で引っ張るように髪を弄りながら言う狩屋に、ほう、と俺は今日二度目の声をあげた。
「だから、羨ましいんです」
 さらさらしてるし、色は綺麗だし、と俺の髪を褒める狩屋。良い気はしないが、悪い気もしない。
「まあ、跳ねてないのは多分髪が長いからだろうな」
「…そうなんですか?」
「俺もお前くらいの髪の長さの時はよく跳ねてたよ」
 ふーん、と狩屋は俺を怪訝そうに見つめている。大方、髪の短いころの俺が想像出来ないのだろう。
「でも、俺はお前の髪の色、嫌いじゃないぜ?」
「はあ…。そりゃどうも」
 狩屋は憮然としてそう礼を述べた。
 それに俺は頭をがしがしと掻く。
 別に、嘘じゃないんだがな。





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