恋と愛の違いがわかる?
 小学校の頃、先生にそう問われた時、皆は分からないと口を揃えて言っていた。その先生はそれに満足そうに頷いて、恋は下心があって、愛には真心があるのよ、と教えてくれた。
 それに皆はそんな訳ないじゃん、それ漢字の話じゃんとブーイングしていたことを覚えている。
 そんな中で俺は、素直にふーんそうなんだと納得していた。その時は、よく分からなかったのだ。恋する、ということが。だから、大人である先生の言葉を聞いて恋とは下心なんだと思った。
 その時は、下心の意味すら分かっていなかったけれど。



 俺は、恋をした。
 同じ学年で、一緒の部活で、琥珀色の瞳が綺麗な彼に。
 最初はなんて嫌な奴なんだって思った。でも、なんでか分からないけど、惹かれた。どうしようもなく。
 それからだんだん、彼のことが分かってきて、気がつくと、彼を探して話しかける様になっていた。…彼は、そんな俺を煩わしそうにあしらうだけだったけど。
 今では、普通に一緒にサッカーしたり、話したり出来るけど、そのころはそんなこと想像すらできなかった。このままずっと煙たがられるのかもしれないとすら思っていた。だから彼が今、俺の話を聞いてちゃんと答えを返してくれるということは、俺にとってなによりも価値がある。
 だからかもしれない。彼と初めて会った日からのことを思うと、きゅうっと胸が絞まるのは。
 それは、今は彼が俺に少なくともちょっとくらいは、心を開いてくれているということだから。それを思うとかなり幸せで。でも、それ以上にはどうしても成れないようなきがして。
 俺は、彼がこれ以上俺に心を開いてくれることがどうしても想像できなかった。…それと反対の想像は、簡単に出来るのに。
 最初はつんつんしていた彼も、今では比較的丸くなって、チームの皆とも馴染んできている。彼はあんな見た目でも、根が真面目だということを皆も分かってきたのだろう。最近では信助や狩屋、キャプテンなんかとも仲良く話しているところをよくみかける。とても喜ばしいことの筈なのに、何故か俺の心の中に黒いものが渦巻く。彼の良いところを知ってるのは俺だけでいい。彼が話すのは俺だけがいい。そんな訳の分からない感情が心の中を支配しかける。それを俺はいつもなんとか押さえ込んで、いつものように振る舞う。
 この感情も、恋というものなのかな。
 あまり、その感情の名前は知りたくなかった。


 いつだったか、辞書を使ったとき、ついでに下心をひいてみたことがあった。辞書には、こう書かれていた。

 心の底(で考えていること)。本心。
 かねてより期すること。とくにわるだくみ

 ふーん、と思った。下心ってそんな意味だったんだって。
 今思うと、下心って確かに恋かもしれないと思う。
 俺は心の底(隠してるから)で、剣城を好いていて、どこかで剣城も俺をそうなんじゃないかって期待している。
 当然ながら、本心を剣城に伝えられる訳がない。
 だって、俺と剣城は男同士なんだから。
 本心を伝えたりなんかしたら、距離をとられることなんて目に見えている。悪いほうに転がるに違いないのだから、本心何て言わないほうがいい。
 そう、俺は心に決めたのだ。




 ふと、顔を上げてみると、藍色の髪が視界に入った。その瞬間ぱっと自分の心の中に日が差し込んだような気持ちになった。
 別に、言えなくったって幸せなんだからいいんだ。これ以上を期待しないといえば嘘になるけど、今が不満な訳じゃない。
 俺は、幸せだ。
 言い聞かせる様にそう心で呟いて、俺は剣城に後ろから抱き着いた。




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