二人はどうやら付き合っているらしい。そう推察するしかない状況になった。
いつも、それこそ親鳥をつけて回る雛鳥のように、及川さん及川さんと付け回している影山と、それをうるさい教えないどっかいけのつっけんどんな一言で楯突く暇もなく突き放す及川さんは、傍目には仲の良い先輩後輩のように見えた。それ以上もそれ以下もなく。影山の無邪気な憧憬と、及川さんが影山にだけ“特別扱い”をすることも。
本当はそうではないときづいたのは、及川さんがスランプを抜けてからだった。いや、逆か。そこからそうではなくなったのかもしれない。
スランプを抜けて、影山は及川さんにサーブの教えを乞うことをやめた。その代わりに、ずっと、見ていた。及川さんの動きを細部まですべて、脳内に完全に記憶したいとでもいいたいように。及川さんは何も言わなくなった。不思議だった。
ある日、俺は部室に忘れ物をして、帰る途中から引き返して学校に戻ってきた。それで、体育館にはまだ電気がついていたからまだ誰か残っていることがわかっていた。忘れ物を取りに来ただけではなんだからと、単純な好奇心と気まぐれで、その中を覗いたのだ。
そうしたら、中で及川さんと影山がキスをしていた。バレーボールの散らかった空間の隅で、まるでそれが当たり前みたいに。そっと、ふれあうようにした後で、まるで見間違いなんかじゃないことを強調するようにもう一度。
驚きで時が止まったようで、その接触の時間は長く感じられた。本当に長かったのか、そうじゃないのかは良く分からない。
その接触の後、二人は何事もなかったように周りに散らばったボールを片付け始めた。何もなかった。一言の声も交わさず、及川さんはおろか、影山は照れも取り乱しもしなかった。
あんまりにもあっけなかった。
その場でしばらく呆然として、はっと我に返って慌てて、でも音を立てないようにその場を立ち去った。訳がわからなかった。その日は家に帰ってすぐに寝た。
次の日、及川さんと影山に会うのが億劫だった。なんとなく、嫌だった。自分が気づかなかっただけで、二人が前からそういう関係だったのかもしれないと思うと、気持ちが悪かった。吐き気まではいかないが、胸のあたりがもやもやして、気分が悪かった。そういう雰囲気を、嗅ぎとれてしまったら嫌だなとなにより思った。
でも、そんなことは一切なかった。及川さんの態度にも、影山の態度にも、そんな匂いは全くしなかったし、やはり“仲の良い先輩と後輩”だった。どう見ても、そうにしか思えなかった。
もしかしたらそんなことはなかったのかもしれない、と思った。けど、それは確かに行われていた。
二人きりになると、二人は必ずキスをする。それが当然みたいに、決まりきったことだとでもいうように。
何回かそれを見て、俺が出したのは、付き合っている、というのはそのままの意味で、という結論だ。及川さんの気まぐれだか、嫌がらせだか、それに影山は付き合っている。どうしようもなく惹かれあった末とか、愛おしくてとか、そういうのではないと思う。そうだ、いうなれば、好奇心の行き着く果、といったところか。愛というには少しばかり言い過ぎる。
おそらく、及川さんには影山に対する敬意がないし、影山は及川さんをバレー抜きでは尊敬できない。
及川さんや影山に、お互いを至上に思えるほどの愛があるのかと言われると、どうしても首を傾げてしまう。もしあったとしても、そこにあるのは憧れや友愛だろう。
ただ、これは憶測にしか過ぎないので、実際はお互いに好き合っているのかもしれないし、もっとドロドロしたもので繋がっているのかもしれない。
それはありえないけど。
でも。

そうだったら、いいなと思う。

そして、それが足を引っ張って、倒れて、そのまま起き上がれなければいいのに。
天才でも秀才でもない俺は、2人がどんなことでも共倒れしてくれたら、それほど嬉しいことはないと思う。いつでも、そんなことを願っている。


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