夜に菅原が包帯を取り替えるのは、影山が菅原の元にきてからの日課だった。影山は自分でできますと言っていたのだが、傷の経過をみたいからと菅原が丸め込んで、毎晩変えている。筋肉のついた足は美しく、包帯をほどきながら、いつもその足のラインをつうっとなぞりたいという衝動に駆られていた。さすがにそれはまずいと理性で押しとどめていたが、黙ってしまうと気恥ずかしく雰囲気に呑まれてしまいそうになるのでいつも何かを喋るようにしていた。
「そういえば、影山は魔法って使えないの?」
 包帯を巻きながら菅原がいつものように思いついたことを聞くと、影山はこくりとうなずいた。
「はい。全く使えなくて。」
「へー。変だな。魔力は感じるんだけど。」
「? そんなの初めて言われましたよ?どんな感じですか?」
 食いついてきた影山に、間を持たせるためにした質問にそこまでの深い理由があったわけではないので菅原は少し慌てる。
「あ、いや、ホントちょっとだからさ、感じがわかるってほどでも無いけど、たとえると、なんか、こう…どろっとしてて…不吉?」
「不吉…っスか…」
 がく、とうなだれた影山に菅原はいうんじゃなかったかな、と少し後悔する。影山から魔力を感じるというのは本当で、それがどろどろしているというのも本当だ。でも影山は魔法を使えないという上に今までにそんなことはいわれたこともないという。少し違和感を感じながらつぶやく。
「俺の魔力とは相性悪いのかもね。」
 菅原は巻き終わった影山の右足の包帯を見つめながら呟く。
 なぜか影山のその足の傷だけは、菅原の治癒魔法が効かなかった。腕の方は魔法が効いたのに、そちらの方はかければむしろ傷口が広がっていって驚いた。そんなことが起こったのは菅原の人生の中で初めてで、原因が全く分からなかった。
 そういうわけなので、その傷は自然治癒に任せている。最初はどうにかならないものかと処置法を変えてみたりと試行錯誤していたものだが、最近はそれでむしろよかったと思う自分がいる。だって、治ってしまったら影山は去っていってしまう。それだったら、少しでも長く治らずに、ここにいてほしいと少しだけ、思う。
 ちゃんと完治してほしいと思う自分と、出来ればもうすこしだけ長く治らないでいてほしいと思う自分。
 どうしようもないな、と思いながら菅原は、その足の傷を包帯越しになでた。


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