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※主人公名 暁

 ばちん、と大きく音が響いた。なんだ、と思いながら、手のひらがひりついているのを感じる。目の前の男も目を丸くさせていて、何が起こったのかわからないといった顔をしている。
 俺が手を伸ばそうとした場所に暁の手があって、払われたのだとやっと理解する。暁もそれに思い至ったようで、視線を所在なくうろつかせた。
「ご、めん、びっくりして」
「お、おう、俺もいきなりだったし……わるい」
 謝ると、暁はいや、といいながら俯いた。気まずい沈黙が落ちる。なにか言わなければ、と考えながら、どんな言葉もふさわしくない気がして言えずにいた。
「むかし、さ、」
 俺が何を言おうか考えていると、暁が俯いたまま、ぼそぼそと話始めた。
「昔、いきなり知らないおじさんに路地裏に連れ込まれて撫で回されたことがあって、でも別に大したことなくて、それだけだったんだけど、トラウマで、」
 触られるの、ちょっとこわい、と呟くようにいう暁に、俺は唇を噛み締める。もしかしたらいままでも暁は我慢していたのかもしれない。いままで全く気がつかなかった自分が腹立たしかった。
「なら、なおさら悪ィ……」
「普段は大丈夫なんだ。いま、ちょっとダメだったみたい」
 ごめん、と再び謝る暁はとても弱々しくて、心の一番深いところを抉られたみたいな気持ちになる。
「なぁ、どこまでなら大丈夫?」
「え?」
「手、握ってもいいか?」
こくり、と頷いた暁を見て、恐る恐る手を握る。暁の手は氷のように冷たかった。顔をしかめて、握りこむ。いたい、とやっと顔をあげて少し笑った暁に、胸が痛む。でもそれを悟られてはいけないと思って、自分も笑う。握った手にさらに力を込めると、痛いって!と暁が悲鳴をあげて、俺の手を振り払おうとする。その力のままに振り払われると、暁は自分の手を守るように胸に引き寄せた。
「もう竜司は俺の手握らないで」
「悪かったって」
「もーほんとばか!」
 怒る暁に、俺はほっとする。あんな悲痛そうな顔なんててみたくない。それだけが叶えばよかった。
「ありがとう」
 暁がそういったのが聞こえたが、わざと聞こえないふりをした。
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