黒猫徒然


王パロ2(1)
2014/07/08 19:36

王宮の庭には、王宮に住まうものたちのためのあずまやがあり、二の姫と呼ばれている朔夜は体調のよいおりなどにはよくそこで書物を読むことを専らとしている。
当代の彩栄王の第四子である朔夜は、母の身分は低く、女官腹だったが大陸最古の歴史を誇る彩栄の象徴ともいうべき、神を具現化したとうたわれる両性であった。
男と女、相反する二つの性をもつ朔夜は存在の貴重さゆえから、女官を母にもつとはいえ王宮にて、姫として生育されてきた。
長い彩栄の歴史に、数百年ごとに誕生する両性は、皆総じて身体が脆弱かつ病弱で短命であり、朔夜も度々病をえて床に臥していた。
ここのところ、体調の良い朔夜は王宮の書庫よりかりだしてきた書庫を両膝にのせ、あずまやの長椅子に腰掛けていた。
このあずまやは、庭のなかでももっとも奥まった場所に位置し、王宮にすまう王族のみが利用する場所だ。しかしながら、病がちな父王や王妃、二人の異腹の兄らや婚儀の決まった姉姫がこのあずまやを訪れることは皆無で、朔夜ばかりがこうして訪れている。
熱心に膝の書物を耽読していた朔夜のもとに、落ち着いた色合いの王族にしては質素な衣装の青年がゆっくりと歩み寄る。
青を基調にした衣装は確かに、王族にしては質素だったが身に纏う青年の美貌は王族として申し分ない、いやそれ以上のものだった。
長身の青年は、足音もさほど立てず長い髪を風にもてあそばせたままの朔夜に近付いていく。
書物の世界から、漸く朔夜が気づき顔をあげたときには、青年は朔夜の間近に佇んでいた。


「二の君様」


二の君、彩栄王の次男であり朔夜の異母兄の一人である皇夜は朔夜の乱れた黒髪を指先で整え、今日は気分が良さそうだな、と淡々とした口調で尋ねた。


「はい、二の君様。ご配慮くださいましてありがとうございます


多忙を極める異母兄との、久方ぶりの対面に朔夜は色白の頬を紅潮させ色合いの淡い瞳を輝かせる。
彩栄王の血をひく、四人の子らは嫡子の一の君と、一の姫が王妃を母にもち、次子の皇夜は側妾とはいえかつては王家の流れを汲む高貴な姫が生母であり、朔夜は唯一兄弟のなかでも生母が女官であるという、いわば母親の身分が子の身分を決めるこの彩栄において、もっとも低い、本来ならば王家の人間として認められぬであろう出自だった。
だが、次兄の皇夜は同じ側妾の子だと幼い頃より朔夜を蔑むことなく接してくれ、体調の良いおりなどには、度々馬で遠乗りに連れ出してくれ、朔夜には不要だとつけられなかった教師らもときには皇夜自身が師となり、学ばせてくれた。母を亡くし、王宮で一人孤独に過ごしていた朔夜にとって皇夜は、かけがえのない兄だった。
朔夜と違い、王子として多忙を極める皇夜は幼い時分に比べ対面することが少なくなってしまい、密かに朔夜は寂しく思っていた。
細絹のような朔夜の髪を整えた皇夜は、その朔夜の髪にさされた髪飾りを目にとめる。
八重の花弁を模した金の台座に、緑玉を嵌め込み、細い金紐を飾りにつけたその髪飾りは皇夜が以前朔夜に贈ったものだった。
手渡した際に朔夜は大層喜んだが、随分と昔に贈ったものであるから、まだ身に付けていたのかと皇夜は顔には出さず驚いた。


「まだつけていたのか」


兄が何をさして言ったのか、悟った朔夜ははい、と小さく頷く。


「・・・・次は髪飾りだけでなく、着物も新調したものを贈ろう」


「え、あ、そ、そのよう、な。も、もったいのうございます、二の君様」


ふるふると、幼い仕草で首をふる朔夜に皇夜は、肉の薄い形の良い唇をほんのわずかわかりにくく緩ませる。


「そなたは、あまり着飾らぬゆえな。一の姫とは大した違いよ」


一国の王妃の振る舞いではない、常に驕慢な王妃と容姿ばかりではなく気質まで似たもう一人の異母妹を、二の君は嘲笑う。
過剰に着飾り、豪奢に振る舞うのも王家の威信をみせるためだと身を飾る装飾品や衣装、果ては食や化粧品に至るまで莫大な金子を浪費しながら、そのくせ王族としての自覚も能力ももたぬ。
ただ容姿が美しいからと、異母妹を王妃に迎える国の王も迎えた新妻の扱いにさぞかし苦労するに違いない。


「何を読んでいた?随分熱心だったが」


「は、はい。あの、二の君様がすすめてくださった書物でして。あ、も、申し訳ありません。よ、よろしければ、ど、どうかお座りください」


朔夜は目をふせながら、たたずんだままの兄に椅子をすすめる。
朔夜の隣に腰掛けた皇夜は、朔夜の膝に置かれた書物の題名を確認する。その際、書物に添えられた朔夜の、指先に目線が注する。
わずかに赤みがかった指先と、桜色をした形の良い爪。その肢体と同じくしなやかなつくりをした指には、指輪の類いがない。
髪飾りばかりではなく、指輪もつくらせよう。紅玉、緑玉、それとも紫水晶が良いか。
朔夜の指に飾る、石を考えていた皇夜は、あずまやに近づく、見知った気配に眉間に皺を刻んだ。
ほどなくして、執務中であるはずの王太子である皇夜と朔夜の異腹の兄、一の君が近頃気に入りだという、愛妾とともに姿をあらわす。
王妃や、一の姫同様不必要なほど着飾った一の君は、美貌でしられる王妃を母にもつだけあり、整った面差しをしている。だが、単純に身長や体格、そして顔の造作をとれば遥かに兄は弟に劣っている。雰囲気さえも。
現に、妾としてこの上ない贅沢を与えてくれる一の君を愛する愛妾は、あずまやの長椅子に腰かける、第二王子のたたずまいと容姿に、頬を染め潤んだ、あからさまな媚を含んだ瞳をむけている。
愛妾の変化を、素早く感じ取った一の君は豊満な肢体の、くびれた腰に回していた腕を外し、愛妾に庭から去るよう口吻荒くいい放つ。
兄とその愛妾の、痴話騒ぎを冷ややかな目で見つめている皇夜のとなりで、朔夜がおろおろと、それぞれに母親の異なる二人の兄を見、困惑する。
愛妾を、愛玩動物のように追い払った一の君は、冷ややかに見つめる異母弟をいまいましげに見返し、その隣の、兄弟のなかで一人だけ凡庸な面差しをした妹に足音荒く近寄り、腕をつかむと乱暴に引き寄せ、抱き上げた。


「私以外の男とは会うなともうしたはずだ。お前はいずれ私の側妾になる人間だぞ」


兄であり、そう遠くはない未来に夫となる一の君に叱責され、朔夜はその腕のなかで謝罪した。


「も、申し訳ありません。一の君様。で、ですが、二の君様は、私の兄君のお一人ではございませんか」


皇夜に咎があってはと、抗弁する朔夜に一の君は激昂する。
同腹の一の姫ほどではないものの、両性であるがために、一の君はそれなりに、朔夜に目をかけてきた。
母の身分もあるが、両性を外に出すつもりもなくまた両性は子を孕めぬことから、神殿あるいは修道院におくるよりはと、父王が不憫がり、朔夜は一の君の側妾となることになった。
彩栄王家は、王族内でのみ近親婚を認めている。
子を孕めぬ朔夜は、一の君の子を産むことはあるまい。それでこそ、都合が良い。
朔夜は、父王が一の君の側妾にと決めたときから一の君のものだった。
だというのに、こんな王宮の奥まった庭にあるあずまやで、よりにもよって一の君がこの世でもっとも忌み嫌い、憎しみさえ抱いている異母弟と会っていたなど、到底許せるものではなかった。
一の君と、朔夜のやりとりをじっと夜闇の瞳で静観する異母弟に、一の君は憎悪の眼差しを向け、悪意のこもった、勝ち誇った口調で異母弟を攻撃する。


「私たちは、たとえ父が同じであろうと母を異にすれば、婚姻出来る。つまりはそこにいる、我が弟もお前を妻に出来るというわけだ。ああ、それもいずれ王位をつぐ、王太子である私でなければ無理な話だ。父王も、臣下らも認めまい。どう足掻いたところで、所詮は妾の子だ。そのうち適当な領地をかしされ、公爵にでもなるのがお前の末路だろう、弟よ。王位も朔夜も永久にお前のものになどならぬわ」


一の君は高らかに哄笑すると、朔夜を抱え庭から去っていった。
暫しその後ろ姿を眺めた皇夜は、朔夜の落とした書物を拾い上げる。
寸の間、目を伏せその書物を見下ろしていた皇夜は伏せていた目をあげた瞬間、凍てつくような氷のような瞳で、前を見据え書物を手に静かに気配すら消して庭より下がった。



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comment


2014/07/12 21:14
from ( ルル )


続きが気になります^_^

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2014/07/10 09:27
from ( こいの )


続きが気になって夜も寝れませんね!!(笑)
ここから二の君の反撃が始まるかと思うと胸あつです!

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