私は、火拳のエースと呼ばれる男に惚れている。
バカで、食い意地はってて、鈍感で…男気ある奴だ。
あいつが海賊だと知ったときは、驚いたけどなんか納得できて、軽く話を流したのを覚えている。
小さな島のバーで酒を売る私にとって彼はお客様でしかなく、それ以外で話すこともなかった。はぁ、もっと別の出会い方をしていたら、もっと私が積極的で素直だったら、私は彼ともう少し親密な関係になっていたかもしれない。
「何を今さら…」
風呂上がりで濡れた髪をがしがしとタオルで拭き、イラつきをぶつけるためベッドに飛び込んだ。
「あいつ、明日から店来ないのか」
あぁ、言葉にすれば、その実感が沸々と私の首を締め付ける。好きだったのに、太陽みたいなあの笑顔が大好きだったのに…もう見えないのね。
店を閉じる前に告げられた朝一の出航の話しは、私の頭を真っ白にするには十分だった。
ちょっと寂しそうなエースの後ろ姿を見送りながらそっと涙を流して、ただ鳴き声を出さないように頑張った。
だって、泣いてるってわかったら、きっとエースに迷惑をかけちゃう。それだけは私の色んな所が許さないから、
海賊さんのお迎えの仕方。
「なーに泣いてんだ?」
「はっ?」
パタパタとベッドの上で足をバタつかせていると、聞き知った声が降ってきた。だが、その聞き知った声は二度と聞かないものだと思っていたため、私の頭は混乱を越えてパニックに陥った。
必死に頭を使うもあまり状況が理解できない。仕方なく思い頭を持ち上げると、いつも私に太陽のような笑顔をもたらしてくれる彼がいる。
「なんで、エースが、いるの?」
さも、当たり前のようにニコニコしながら私の横に腰かけた男に、そっと声をかけると、答える代わりに温かな指先が私の目尻から溢れた水滴を拭き去った。あぁ、なんかムカつくな。
何でもわかっていると言わんばかりの態度にイライラがつのっていく。けど、エースが隣にいる事実が凄く嬉しい。
そして、なぜ私の横にいるのか理解できなくてハテナマークがふわりと浮かんでくる。
「エース、」
なぜいるのか知りたくて、すこし問い詰めるようにエースの名前を口にすると、
こぼした言葉を止めるように私の唇の前に人差しが出された。
「俺は明日この町を去らないといけない。
けど気に入った女はこの町にいる。
それで悩んだ。」
似合わない真剣顔が頭をひねってやっと出てきたようにゆっくり丁寧に言葉を絞り出した。
その内容は、真剣顔が吐き出すにはあまりにも幼稚でため息が出る。
なに?
海賊さんらしく拐ってくれるの?
次の言葉を予想して、予想できてつまらないとか何とか思いつつ、本当は凄く嬉しい。けど、幼稚で想像のつく内容に
バカじゃいの?
海軍に捕まっちまえ。
見損なった。
とかばっかり頭に浮かんでくる。
だが、
そんな言葉をまるで無視するかのように、
柔らかい、そしていたずらっ子の笑みを浮かべたエースが、楽しそうに口を開き予期せぬ回答を持ち出した。
「だから、プロポーズしにきた。一緒に海に出るぞ、なまえ。」
と宣言したときには、私の頭に浮かんだものは無意味な産物として廃棄された。
「海賊っぽくないわね。」
「そうか?」
「そうよ。」
「なぁ、俺は海賊である前に男なんだぜ。」
「だから?」
「ここは、男らしくやりたかったんだけどな…違ったか?」
「なんか色々見事にすっ飛ばされた気分。まぁらエースらしいし、私は好きよ。」
どうやら私は自分じゃどうしようもないほど
まったく変なところで礼儀正しい不思議な海賊さんに、恋に落ちてしまったらしい。
「さぁ、どこに連れていってくださるんですか」
色んな事に諦めた私は、小さな鞄にお気に入りをいくつかつめて、エースに尋ねた。
…後書き……
ヤホです。いつもいつも企画参加ありがとう!嬉しい限りです。
こんかいは、海賊らしからぬ言動を言うエースに振り回されるエースをテーマに書きました。
夢限大様が求めるエースにすこしでも近いと嬉しいです!!
参加ありがとう。また機会があったら参加してね。