歌が聞こえた。


それは、今話題の曲とかそう言ったものじゃなくて、
小学生の時とか、合唱コンとかで歌われる誰でも知ってるようなもの。



だけど、その歌は俺の心に染み渡った。




あまりにも、
歌声が美しいから。





俺だけの歌姫





「たとえば君が傷ついて、」


忘れ物を取りに放課後の暗い廊下を進んでいた俺の耳に届いたのは、透き通る音歌われたワンフレーズ。



「くじけそうになった時は、かならず僕がそばにいて」



俺のクラスに近づけば、近づくほど音が大きくなっていく。

クラスに歌がこんな上手い奴いたっけ?
音楽っていったら、神童だけど…当たり前に違うな。
誰だ?っていう好奇心が俺の中を駆け巡った。


後クラスまで、5メートルほどに迫った頃、忍び足でそっと歩くようにした。

この歌を止めたくない。と言うのと、なんだか逃げられそうな気がしたから。



「ささえてあげるよ、その肩を」



こっそり、扉から中を覗くと、1人…女子がいた。

真ん中の机に座って足をばたばたと動かしながら楽しそうに歌っている。



「世界じ…」



静かに聞いているつもりだったんだけどな…俺の気配に気づいたのか、その女子は、歌を止めて振り向いた。


「なまえ?」


歌が止まったことが残念だと思ったけど、それより彼女の招待に驚いた。


なまえだったのか…クラスの中で一番大人しく、滅多に喋らない奴だ。そう言えば、1年の時も同じクラスだったけど、話したことなかったな。


「……」


あっ、泣きそう。

歌を止めて俺を見つめるなまえは、顔を真っ赤にして今にも泣きそうだ。
なんか、悪いことしたな…。謝りたいけど、今何かを言ったら、言おうとしたらなまえは泣いてしまうだろう。

そんな、気がするんだ。繊細な奴っぽいし。

ほら、音楽に関わる俺の知り合いとか泣き虫だし。


「…聞いてた?」


言葉を発するのすら辛そうな重い口を開いて、やっと聞き取れる声は呟いた。

さっきの歌声より劣るが綺麗な音だ。どうにか、このまま話したくて俺はなまえが興味を持ってくれそうな感じに抽象的な表現で彼女の質問に答えた。


「素敵な音だったから、もう少し聞きたかったな。」
「音?」
「あぁ、声がろうかに響いて綺麗だったんだ。苦しいこととかが癒される、癒しの音」


さっきよりも真っ赤になった顔をうつ向かせてもごもごどもる彼女は、最初ほど俺にビビってはなさそうだ。ニッと笑ってみると、少し顔をあげて表情を和らげた。
それが可愛くて、俺は持ってる荷物を近くに置いてなまえの顔を持ち上げた。顔を伏せさせたくなかったから。


「なっに、」
「おいおい、
そんなビビるなって…歌って欲しいんだ。もっと、俺だけのために」


顔を下げられたくなかっただけのはずだったのに、俺の口は歌って欲しいと言葉を吐き出した。


「えっ…」


戸惑う彼女以上に、俺は戸惑った。なぜ、歌って欲しいと言ったのか、考えた結果出た結論に驚いたんだ。




「好きなんだ。なまえのことが、好きなんだ。




…一目惚れって本当にあるんだな。」



顔を赤くさせ困ったように告白する俺の手をギュッと握りながら、真っ赤な顔で、なまえは歌の続きを歌ってくれた。





(なまえ、)
(えっ、はい。)
(可愛いよ。)
(そう言うこと、ジッと見ながら言わないでください!!)





…後書き……
こんにちわ!!大変遅くなりました。

ことこまなかな設定ありがとうございます。ご期待にそえたか不安ですが、全力で書きました!

今まで霧野くんのヒロインは元気かバカな子ばかりだったので、凄く新鮮で書いてて楽しかったです´`

今回は参加ありがとうございます。また機会がありましたら参加してくださいな〜


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