連れ込むようにして、海外出張で両親のいない家に拓人を連れ込んだ。兄さんや姉さんは、見慣れた光景だと言うように何も言わずに私の行動を見送った。
2年くらいぶりに拓人を部屋に招き入れ、ローテーブルを挟むように向い合わせに座って落ち着いた。あぁ、これだけで幸せを感じる。
同一直線上
「ふぅーん。」
一通りのサッカー部事情を聞いた私は、そう反応するしかなかった。
私、サッカールールしかしらないし。
「まぁ、アドバイスはできないけど、こんな話ならしてあげられるかな…雷門中サッカー部は、10年前7人しかいなくて試合にすら出れなかった。しかも、当時最強だった帝国学園との練習試合に勝たなければ廃部になる危機まであった弱小チームだったの。」
「だけど、その世代が優勝して…」
「そうよ。」
「じゃあ、弱小じゃないだろ」
「7人で試合にもでれなくて、すさんでいた彼らを励まし、部員を笑われながらも必死にかき集め、帝国から1点をもぎ取るまでにチームをまとめ導いた選手がいたの。それが円堂守。かれは、キャプテンとしてチームのみんなと協力し、支え合い最強のチームを作ったの。貴方との違いわかる?」
「違い?」
「わからない?貴方、一人で全部背負って、チームのみんなと支え合ってない。サッカーって、チームスポーツでしょう?一人でやってるわけじゃないのよ。もっと、チームの皆と支え合ったりしなさいよ。蘭丸もいるでしょ」
10年前のサッカー部の資料を拓人に放って渡してやると、拓人はチームメイトと笑い合って幸せそうな円堂先輩の写真を手に取った。
「一人じゃない。」
「そうよ。でも、どうしても一人で泣きたくなったら私のところに来なさいよ?全部受け止めてあげるから。」
私は、拓人の手を両手で握りしめて、目を閉じた。
「ありがとう…」
目を閉じたことで余計、さっきより緊張の溶けた拓人の声が、頭の中で響いた。
「平気よ、だって私拓人が大好きだもの。」
「俺も…」
私たちは、静寂を楽しんだ。
(重なる手がやたらあつい。)