「サッカーなんて嫌いよ。」
放課後、一人帰宅しようと校庭に出た私は、転がっているサッカーボールを見つけ、呟いた。
「嫌いよ。」
もう一度呟いて、それを拾いに来るだろう部員に会う前にそこから立ち去った。
「嫌いよ拓人を苦しめるものは、みんな嫌いよ…」
逆ベクトル
おはよう。
その一言さえ交わさなくなった私の思い人であり幼馴染みの拓人は、今日もサッカーボールを追いかけている。
そんな彼を生徒会室から眺め、ため息をついた。
こんなに近くにいるのに、彼はもう私に笑いかけてくれない。
「近くて遠いのね」
近くて遠い…あぁそれとも、進む方向がちがくなってどんどん遠ざかっているのかもしれない。
「拓人…苦しむならやめてしまえばいいのに。泣き虫のくせに…」
泣きたいなら、昔みたいに私に泣きつけばいいじゃない。
私はいつでも受け止めてあげるわ。
待てども、君は来ない。