あれは何時だったけな。
私が平成に来てからかなりの時が経つ。
はじめは、戸惑うことばかりで○○に迷惑をかけたものの今じゃ家のことは大抵できる。まぁ、料理に関しては○○の方がうまいが。
今思い返しても、何がきっかけになって平成に来たのか全くわからない。気づいたら○○のマンションにいたとしか言えないのだ。
それは突然だった。
そして、今起こっていることも突然だった。
「……っ」
○○を抱き寄せた後、違和感を感じ自分の手を見ると霞んでいた。何がなんだか全くわからない…私が霞んでいる?人が霞むなんて現象聞いたことがない…まさか、と私の中に嫌な考えがよぎる。
「三郎?」
○○も異変を感じ取ったのか、私の胸から顔を上げ霞む私を見て目を見開いた。きっと同じ考えが浮かんだんだろう。
「三郎、いなくならないよね?ねぇ、行かないよね?」
「○○…」
ギュッと力を込めて私にすがり付く○○を私は抱き返す以外何もできない…このまま離れるなんて事…そんなことあってたまるか。はじめの頃はあんなに帰りたかった元の世に、今はどうしても帰りたくなかった。
もう一度○○の名前を呼ぼうとしたとき、視界が暗くなった。
恐ろしくなって腕に力を込めると、温かさがある。○○はまだ腕の中にいる。
お帰り
「くっ…」
「きゃっ」
ドスッと固いところに落ちたのか体に痛みが走る。
腕の中にある温かさと、声から○○と離れていないことを知りホッとする。
○○と一緒ならば、ここがどこであろうともあまり気にならない。
ほっと息を吐くと、聞き知った○○と違う声が「三郎っ」と私を呼ぶ…まさか、この声…
私は固く閉じたまぶたを開けた。
「雷蔵…」
○○の頭の向こう、そこに雷蔵がいた。