「…三郎?」


私の変わらないはずの日常に小石が投げられた。





おかえり。





「私は、ダメなんだ。お前がいなくちゃ…○○がいないとまるでダメなんだ。だから…」


だから の後に三郎は言葉を続けなかった。だけど、力のこもった腕から言わんとしていることは分かった。

だって、私も…三郎と一緒にいたい。何気ないことで笑って怒って悲しんで、同じ景色を見たいもの。

でも、あそこを出ると言ったのは私だし、出ていったのも自分の意思。

私の一存でここをやめ学園に戻ることなんかできやしない。


私は、答える変わりに三郎を抱き返した。


「三郎に会えて私嬉しい。」
「あぁ。」
「何気ないことで笑って怒って悲しんで、同じ景色を見たい」
「あぁ。」
「でもね…」
「分かってる。」


でもね、簡単には戻れないの。

だけどね、気持ちはあの時のまま同じだよ。


「大好きよ三郎。」
「愛してる…○○。」
「ませガキが」
「なんとでも」


気づいたときには三郎の胸の中で泣いていた。









「○○ちゃん。」


少しの間抱き合う私たちに遠慮がちに声をかけてきたおばちゃんに、私は一気に現実に戻された。


あっ、やば。少女漫画みたいなことしてる場合じゃなかったんだ。いま仕事中じゃない…給料減とかなったら私泣いちゃう。


「へい。なんでございましょうか!!」
「お客様がみえているよ」


三郎から体を離して外の席を見てみると、またしても珍客がおられた。
学園長いつからいらしたの?。

なんでだ?あっ、三郎のお迎え?いや、学園長直々のお迎えとか考えられないしな。


「三郎、君はこの状況をどう思う。」
「外出届を出したから、私に関しての用ではないだろう。」
「つまり、私への用か。」


ちょっと行ってくるわと涙を拭いた私は三郎を置いて外席に向かった。

そんでもって、
お久しぶりです。などなどチョロチョロ話し、学園長のながい自分話を右から左へ受け流し、適当に相づちを打った後本題を聞いてみた。


「で、ご用件は?」
「そうじゃった。」
「忘れちゃダメでしょ。」
「忘れてたわけではないぞ。まぁいい。
折り入って相談があっての。」
「はい。」
「学園に戻ってきてくれんか?小松田君のミスをフォローしてくれる君がいなくなってしまって事務がてんてこまいなのじゃ。」
「いや、私も新しい仕事があるんでね」
「その事なら心配ご無用じゃ。○○がいいのなら条件つきで学園に戻って良いことになってる。」
「条件?」
「週2回店の手伝いをするだけじゃ」
「わっほい。ここまでとのくらいの距離あると思ってんですか。」
「乗馬の訓練でもすればよい」
「馬乗れってか。馬通勤かよ」


馬通勤は辛いけど、三郎と一緒にいられるなら…答えは決まってる。


(帰ったら団蔵つかまえなくちゃな。)





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