何も聞きたくなかったから、耳を塞いだ。
何も言いたくないから、口を閉じた。
誰ともいたくないから、一人になった。
私は、我が儘だ。
「三郎」
「なんだ雷蔵?」
そんな私に雷蔵は一石を投げた。私しかいないはずの世界に雷蔵がなじむ…久しぶりに穏やかな気持ちになった私は、雷蔵の方を向いた。
「三郎に来て欲しいところがあるんだ。」
すでに私は、
「かまわないぞ」
馴染んだ雷蔵を追い出す気にもなれなくて、言われるがまま私服に着替え雷蔵の後に続いた。
その先に何があるかも知らずに
ただ、なんとなく雷蔵について歩いた。そのまま一刻ほど無言で足を進めていると、緑の香りが薄れ甘い菓子の香りが鼻をついた。
そこからもう少しあるくと甘い香りの正体であり、今回の目的地であろう一件の小さな団子屋にたどりついた。
雷蔵は団子でも食べたくなったのか?そう思い雷蔵のほうへむくと、真剣な顔の雷はが静かにするようにとサインを出した。なんなのだろうか?とおもいながらも耳を澄ませていると店の中から女の声が聞こえてきた。
「ありがとうございました。また食べに来てね。」
それは、明るく響きのいい声で、わすれられるわけもない私にしみついたこえ。
私が聞きたかった声…
求めていた愛しい声。
この声は…
○○の声だ。
「雷蔵?」
隣にいる雷蔵を見ずに聞くと、静かな調子で答えた。
「うん。この中に○○さんがいるよ。」
真っ直ぐ団子屋を見れば、心臓がドクドクといつもより早く血液を送り出し始める。ここに、○○がいる…
○○に会いたい。なのに、そのはずなのに、
私の足は動かない…重い、鉛のだ。ただたちすくむわたしに雷蔵は苦しそうに静かな口調で
「三郎、○○さんね…『もし、三郎が止めるなら、行かないかも』って言ってたんだって。」
と、私のしらなかったことを教えてくれた。
その内容は、私の胸にズシッと重くのし掛かる…
「それと…きっと止めてくれないだろうって思ってたみたい。」
○○は、どんな気持ちであの時私を置いて出ていったのだろう…なぜ、あんな風にするしかなかったのだろう。
「……私は、○○が思っていた通りの事をしたってことか…」
「そうみたいだよ。」
私は、あいつの気持ちを何一つくんでやれなかった。そのくせ私は、○○が決めた覚悟を振り払いここに来ている。今あったら…また○○を悲しませるんじゃないのか?そう思ったらまた足が重くなった。
「ねぇ三郎僕らはまだ子供だ。たまには、甘えたっていいと思う。○○さんは、女性であり大人。三郎は男であり子供なんだから、たまには素直に甘えてみなよ…○○さんはそれを重荷になんか感じないよ。でなきゃ、三郎のためにと出ていったりしないよ。」
「…ありがとう行ってくる。」
情けなく涙をこぼしそうになる私の肩を優しく押して行ってこいと暗示する雷蔵。その言葉に後押しされ、意を決し店に向かう
店に入り、私に背を向けている彼女に声をかけると、○○は驚いたように目を開いて、三郎?と言った後、笑顔で久しぶりと続けてくれた。
「会いたかった。」
「うん」
「私は、○○に会いたかった…」
「うん。」
おかえり。そう言うかのように柔らかな笑顔の彼女に、心のそこからあんどした。求めるものがめのまえにいる。まだ私に笑いかけてくれる。この事実が苦しいほど嬉しい。
安心したわたしはすがるように彼女を抱き締めた。
ここ所が何処であるかなど頭から抜け落ちた私は、ただ離れたくなくてきつくきつく彼女を抱き締めた。
「私は、ダメなんだ。お前がいなくちゃ…○○がいないとまるでダメなんだ。だから…」
だから帰ってきてくれないか?
続けようとしたけれど、これだけは声に出せなかった。だから変わりに抱き締める力を強めた。