真紅の髪がシーツに散らばる。まるで血の色をした茨をかき分けている気分だ。その先であらわになる真っ白な肌は雪に似て、真冬に咲く椿のようなコントラストを感じさせた。新雪を踏み荒らすことに似た、そんな罪悪感を抱きながら、相田 リトはその皮膚へそうっと手を伸ばしてみる。横たわる少女の薄い唇から、空気に溶けてしまいそうなほどかすかな吐息が漏れた。鮮やかな紅と橙の瞳が揺れている。恋しげに、またはうっとりと、もしくは心許なく不安げに、涙を滲ませている。強情で気高い彼女には、いささか似合わない姿かもしれない。けれど、この絶対的君臨者が艶顔を見ることを許すなど、そうおいそれとあるものではない。現時点では、そんなことを彼女から許されているのは、まごうことなき彼女の恋人・相田 リト少年だけであろう。そして、その事実をしっかりと理解している彼は、彼女――赤司 征華の稀少な姿に、ときめきと愛しさくらいしか感じるものはないのであった。
美しいラインを描いて流れる鎖骨へ口付ける。少し躊躇を含みながら舌でなぞると、赤司の口から「あっ、やっ」と小さな声が上がった。とたん、リトはパッと手を離して、身を起こす。
赤司がポカンとその様子を見た。
「ごめん」
「え……は?」
めずらしく状況理解が迅速でないのか、平常時はキリリとしている赤司の顔が、このうえなく呆けていた。
「やっぱりまだ早かったか」
「え? いやちょっと待ってください。急にどうしたんです」
ベッドから降りようと動くリトの衣服をつかむ。懇願するようなそれは、彼女の焦りであった。どうしてこんな据え膳を目の前にして、そんなあっさりと引き下がれるのかこの男は。本当に男なのか。
「いやぁ、だって」
リトの眉毛が申し訳なさそうに下がる。
「『やだ』って言っただろ? さっき」
赤司 征華は固まった。今この瞬間、自分はえらく悲壮な、かつ衝撃的な形相をしているのだろう。愕然とした彼女の表情に、リトはキョトリと首を傾げた。
「そ、それはもしかしてさっきの『あっ、やっ』という声のことですか……」
「そうそう、それ。まあ仕方ないよな。女の子には心の準備とか、いろいろあるっていうもんな。それは僕にとってもそうだけど、僕は赤司さんの意見を尊重したいし、嫌なことはしたくない。気持ちがまだ追い付かないなら、きちんと待つよ」
柔らかく笑うリトに対して、赤司は重い重い溜め息を吐いた。心なしか影を落とした額に手をあて、もう一度深く嘆息する。
「これはいったいなんの羞恥プレイなのか……」
「ん? なんだって?」
声がよく聞き取れず、リトは片耳を赤司に近付ける。
「AVやエロ同人誌だって、『いやぁ』とか『だめぇ』っていう台詞をわかりやすいOKの合図として乱用しているというのに……」
「え? だからなんて?」
「もうわかりました。はい、わかりましたとも。今後はこんなテンプレみたいな喘ぎ声は出しません。さらにテンプレなものを使ってやります。さあ、いらっしゃい。『あぁんきてぇ!』という最終形態を初っ端からぶちかます勢いでお相手してさしあげます」
ついぞリトへの返答はせずまま、赤司はバッと両手を広げた。先ほどまでの絡みではだけた衣服がその動きでさらにはだけたが、リトに湧き上がったのは性的興奮ではなく、「またおかしな独りよがりを」という困惑の感情だった。
「なんかよくわかんねーけど、赤司さんの趣旨が微妙に違った方向へ逸れていってるのはわかる」
その言葉に、赤司はぐっと唇を噛んだ。どこか決まり悪そうに目線を逸らし、ボソボソと口を開く。
「本当にどこまで鈍いんです。女の方がこんなことを言わねばならないなんて……このわたしがここまでこぎつけるのに、どれほどの労力と策と根回しを費やしたと思ってるのか。まったく、相も変わらず一筋縄じゃいかない相手ですね」
――まあ、そんなところがいいのだけど――
その囁きはきわめて小さく、耳をすまさねば聞き逃してしまいそうなほどだった。実際、その瞬間に赤司から突然の抱擁を頂戴したリトは、うっかり細部を正確にとらえられることができなかった。しかし、そこはそれ、なんとなく雰囲気でなにを言われたかは察しがつく。愛の力というやつだ。
首に抱き付いた赤司の髪を撫でる。離すまいというふうに、締める力が強くなった。きっと赤くなった顔を見られたくないのだろう。やれやれ、とリトは笑った。鈍い鈍いと言われながらも、彼は彼女が本当に気付かれたくないと思っていることに関しては、天帝の目なみの洞察力を見せる。そのことに対して、勝利に固執する彼女が「何故勝てない」と躍起になったのが、まあいわば二人のなりそめというやつなのだが――、それはまた別のお話である。
――――――――――――
なにこれ…誰だよコイツら。
にょた赤司さんはツンデレ属性なの?それともリトさんだけになの?私にもよくわからないです…(おい)
リトくんはこういう鈍さがあると私が楽しいなと思いました。赤司さんが女の子なのにやたらお誘いをかけねばならないというかわいそうな図です。きっと女王様からの傲慢なアピールも、リトくんは全部受け流していたんでしょう。それでムキーッ!ってなった赤司さんが勢いで「だから好きなんですよ!」とか言ったら「なんだ、なら初めからそう言えよ」とか返してきちゃう…そんな性転換赤リコ…。なんていうか、性転換竜エリとまったくおんなじタイプなんですけど。私の好みェ…
性転換赤リコの設定が相田 リトと赤司 征華で固定されつつあるので、「いきなりなに!?なにコイツら!?」と思われた方は前々の性転換赤リコを見てくださると詳細等が書かれております…すみません。
最近性転換ばっかりとか、そんなこと言っちゃいけない。
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