「あなたを絶対に許しはしないわ、赤司 征十朗」
そう宣言する相田 リコの口元は、うっすらと綻んでいた。ザザン、と音を立てる波が、彼女の素足を濡らした。
「青い空、青い海、白い雲。こんな爽やかきわまりない状況で言う台詞ではありませんね」
「あら。じゃあ、なんて言ってほしかった? ドラマティックに表現してちょうだい」
「そうですね」
赤司はゆっくりと視線を海からリコへと移した。リコは後ろで手を組んで、彼の返答を待っている。彼女のあつらえたような白いワンピースが、風ではためいた。
その華奢な肩に手を置いて、軽く押す。抵抗はほとんどなく、赤司はリコを押し倒すことに成功した。バシャンと水が跳ね、二人して浅い水に浸かる。リコの髪とワンピースが水面に広がり、一枚の絵のような図を作り上げた。それに跨がる自分はなんという背徳者だろうかと、赤司は恍惚と苦渋に微笑む。実際には、唇を噛んだだけともいう。
リコの手が赤司の髪を撫でた。その手をとり、指先へ口付ける。白く柔らかな手は、驚くほどただの女の子だった。
「さようなら、リコさん」
赤司から送る、ロマンティックな別れの挨拶だった。
リコはふっと、目を細めた。
「いまさら隠したところでなんの意味もない。正直に言うわ。私はあなたを愛していた」
「ええ、僕もですよ」
「そして憎んだわ」
「ええ、知っています」
赤司は愛おしそうに、リコの掌に頬ずりした。
「僕たちの間にはなんの約束も確約も思い出もない。あるのは相容れない思考と敵対関係のみ。でも、人の心とは異常なものだ。そんな場所でも愛は生まれる」
「綺麗な言い方をしないでちょうだい。これは呪いよ。かけた側もかけられた側も一生逃れられない、とんだ鬼畜な呪いだわ」
「いいですね。あなたがかける呪いなら、僕は甘んじてこの身を捧げよう」
「堂々巡りね。私たちは、今、この瞬間、ここで、終わりなのよ。残すなら、憎しみだけでいい」
赤司はそっと、その歪んだ唇へキスをした。
「それがあなたの意思ならば」
「とんだ腑抜け野郎になったものね、赤司くん。ご自慢のエゴイズムはどこへいったのかしら?」
「そんなものでどうにかできるのであれば、僕とてこんな不倫じみた関係を望んだりはしなかったけどね。あいにく、人間関係の修復にはトラウマがある」
散り散りになってしまったかつての仲間。“キセキの世代”と呼ばれた、栄光の記憶。それを誰よりも欲し、求めたのは、この赤司 征十朗だった。
「元の形へ完璧に戻れないことは、だれよりも僕が知っている。だが、僕はあなたを諦めることよりも、彼らを諦めることの方がよっぽど馬鹿らしい」
「それでいいのよ」
リコは変わらず微笑んだままだ。そして、それは赤司も同じだった。
「忘れることも、忘れられることもしたくない。だから憎しみで、恨みで、自身を縛り付ける。なんて不毛な話なのでしょうね」
「勘違いしないでね。私はあなたに見切りを付けただけ。なんの利益もないと判断したからよ」
「なら、それでかまわない。ここに僕とあなたがいたことは事実なのだから」
穏やかに、二人は手を離した。だれも聞くことはない最後の言葉を、終始笑顔で言い終えてから。
▽またこんな……。前の赤リコの別Ver.みたいなかんじでとらえてもらってもいいです。
天野月子聴いてたらそんな話ばっかり書きたくなる。表現することもできないのに。
なんで赤司さんがヤンデレっぽくなるのか。もっと違う赤司さん開拓したいだれか教えてくれ(おい)
ほんとは海の中で赤司さんがリコたんの首締める手筈でした。けどなんかあからさますぎるんでやめました。なんせ二人とも諦めモードなので。
雰囲気だけを優先すると、いつもわけわからんものになりますね。
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