「セックスをしたからって、繋がり合えるわけじゃないのよ」
クシャクシャになった布団の中で横になり、隣で同じように寝転ぶ男の顔に手を伸ばしながら、レアンは小さく零した。その手は、健やかな寝息を立てる少年の鼻先で、無意味に停止した。
こういった無毒な表情は、昔となんら変わらない。悪役らしいニヒルな笑みと、他者を退ける一匹狼のような姿は、今この空間にはない。挑発的で勝負好きなのは以前と変わらないが、そこにある意味合いが不吉になってくればくるほど、彼もそれに巻き込まれているように錯覚する。
それを言うなら、自分とて昔の自分とは違うのだから、あまり責め立てるわけにもいかない。バーンが強い対抗心で他チームと争うのは、ひとえに率いるチームが存在するから。そして、認めてもらいたい人がいるからだ。レアンがボールを蹴るのと同じ理由である。
こうして、肉体を物理的に繋げたとて、なんの意味もない。そう気付いたのは初めての夜だった。肌と肌が密着し、相手の汗や体液を浴び、その熱や鼓動や息づかいをすぐ傍で感じようとも、所詮はそれだけの話。本当に、それだけの話だったのだ。いかに事の時には彼を近くに感じようと、心は重なり合わない。勉強中の漫画のようなもの。別次元として進行される、ほんのわずか、自分たちには日常となってしまった非日常の中の、ひとつまみのお砂糖。一時の夢。現実的で夢見心地で、裏側のような表側。どこにいるのか、何をしているのか、しばし忘れる遮断された世界。
けれど、それだけなのだ。悲しいことに、それだけなのだ。
バーンは目覚めない。寝付きがいいのも昔からなのに、何故こんなにも虚しいのかわからない。抱き合った後に、その頬や前髪に触れることさえ躊躇うのは、今の彼は「バーン様」と呼ぶべき立ち位置にいるからだろうか。涙さえ出ない。
遠いものだ。体はこんなに近いのに。
この間にある見えない境界線のようなものを見ながら、レアンも眠るために体を縮めた。
バーンがいつも先に寝るから悪いのだ。だから、よけいなことを考えねばならなくなる。こんな夜に一人取り残された孤独だとか、置いていかれるような焦燥だとか、誰もが敵になってしまったことに対する哀切だとか。
きっと彼だって感じているに違いないのに、語り合うこともかなわない。二人で布団に潜ってとうとうと互いを慰め合うなんて、バーンはよしとしないだろう。ならばどうして自分を抱くのか。彼なりの縋り方は、レアンにはわからない。直情的な似た者同士でも、案外噛み合わないことが多いのだ。それが男女の差というものか。それとも、見据えているものの違いか。
――また、ろくでもないことを考えていた。
振り切るように、レアンは寝返りを打った。明日も練習がある。体はすでにヨロヨロだ。早いところ休まねばなるまい。レアンはそっと肩越しに振り返り、赤髪の少年を睨むように見た。まったく、体力ばかり有り余っている奴だ。
こういうことをしているのに、終わったら指先で撫でることすらできないなんて。人とはよくわからないものだと思う。
体勢を元に戻し、レアンは今度こそ固く目を閉じた。その白い背を見つめる少年の瞳に宿るものに、レアンはまだ気付かない。
▽結局は似た者同士なのだ、って話。晴杏じゃなくてバンレアなのがポイント。
好き勝手に書いたはずなのになんか納得いかないこの不思議。
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