荒北 靖友の舌打ち回数が、本日通算15回目を記録した。

 まったくなんだってこんなことに――

 頬から唇までを歪め、荒北は出されたお冷やを煽った。味はないはずがいやに苦く感じた。それはひとえに、この状況への彼の心持ちがそうさせているのだろう。荒北は一人の女生徒と、夕暮れのファミレスで向かい合っていた。

「あー、アンタさ。あれだ、その、名前なんつったっけ」

 お冷やの入ったグラスを軽く揺らしながら尋ねる。少女は小さく「宮原です」とだけ答えた。

「宮原さんね。なァ、宮原さん。アンタいい加減、泣き止んだらどうよ」

 ぞんざいながら探り探りの荒北の言葉に、少女はビクリと体を震わせて縮こまった。小柄な少女であるから、俯くと荒北にはつむじしか見えなくなる。けれど、いまだ聞こえる鼻を啜る音と、小刻みに揺れる肩が、彼女の涙の健在を教えていた。

「ちっ……」

 荒北の舌打ち回数が16回目となった。致し方ないことかもしれない。せっかく部活もないオフの日に、話したこともない、知り合いでもない女子――しかも泣いている――と二人で沈黙を紡いでいれば。

 彼女はあいかわらず声を上げぬまま、しかし確実に泣き続けていた。まあ、泣き止めと言われてそう簡単に泣き止めるわけもなかろうが、泣いている女子と同じ空間で二人きりというのは、かなり居心地が悪いものだ。荒北は自身の口調や態度が他人にどのような印象を与えるか、いちおう自覚している。下手なことを言って事態を悪化させたくもない。

 やり場のない苛立ちのまま、荒北はドサリとソファに背中を預けた。

「失礼します。ご注文はお決まりですか」

 このタイミングでウェイトレスが来た。にっこりと、決まりきった笑顔で伝票を構えている。客の様子を意に介さず、どのような状況にも冷静に対処せんとするその職業意識の高さはなかなかだが、逆にわかっているのにあえてスルーされているようで気まずかった。別れを切り出した彼氏と別れを切り出された彼女――そんなあたりの図がこのウェイトレスにも、そしておそらく周囲の客にも浮かんでいるのだろうと考えて、荒北はまた頭が痛くなる思いだった。

「あーっと……ドリンクバーふたつ」

 歯切れ悪く、荒北はウェイトレスへ注文をした。チラチラと視線をやっても、向かいに座る女子は顔を上げようとしない。他人に見せられない顔をしているに違いないので仕方がないが、それで荒北のイライラがおさまるわけでもない。

 「かしこまりました。ドリンクバーはご自由にお使いください」と言って、ウェイトレスは下がっていく。しぶしぶと、荒北は立ち上がった。

 ドリンクバーの機械の前に立ち、グラスを二つ手に取る。しばし機械のラベルを睨み付けた後、一つのグラスにはウーロン茶を注いだ。もう一つはさらに目線を動かしてから――赤いラベルのコーラを入れた。この店にはベプシがなかった。

(ったく、めんどくせェ。なんでオレがこんな目に)

 二つのグラスを手に、荒北は意味もなく窓の向こうを見た。外はだいぶ夜の暗さを引き込み始めていた。

「オラ」

 ゴン、と音を立てて、荒北はウーロン茶の入ったグラスを少女の前に置いた。彼女はぎゅうと唇を噛むと、ペコリとお辞儀をした。律儀さと真面目さだけは、この短い間にもよくわかった。あの真波 山岳の幼なじみ。

 荒北も定位置に座り直すと、コーラをぐびりと一口含んだ。炭酸がシュワリとはじける。幾分気分も和らいで、彼は今度は冷静に目の前の少女を観察した。きっちり真ん中で分けられた前髪と、きっちりしばられた二つくくりの黒髪。今時めずらしいノンフレームの三角眼鏡。崩れを知らないまっさらな制服。

(ガリ勉だ)

 荒北は心の中で、少女をガリ勉メガネと呼ぶことに決めた。

(つーかなんで連れて来ちゃったかねェ……)

 事の発端を回想して、荒北は渋い顔をした。この不可解な現状は、元を正せば自分にはなんの関係もないものだった。原因がなにかは知らないが、彼女について“同じ部活の後輩の幼なじみ”という認識くらいしか持ち合わせていなかった荒北に非があるはずもない。本来なら、素知らぬふりをして通り過ぎるところだった。――が、

『おい』

 ある程度の嫌な予感を抱いて声をかけると、振り返った彼女は案の定涙を零していた。くそ、しくじった、と回れ右したい気持ちがほとんどを占めていたが、荒北はその女子の手をつかんで歩き始めていた。たたらを踏むような足取りと、空気を何度も吸い込む音で彼女の困惑は充分察したが、いまさら足を止めるわけにもいかなかった。

 本当に、何故声をかけてしまったのか。自分らしくもないと、荒北は眉間に皺を刻む。ろくに知りもしない女に――いや、もしくはろくに知らない相手だからだろうか。それが、顔見知りでなくとも、部の後輩と古い間柄の人間だと覚えていたからだろうか。おまけにそれはあの真波 山岳だ。彼女の涙を見た瞬間、その原因が真波 山岳にあるのではないかと、直感的に荒北は思った。真波が自由児で、その行動が時たま人には不可思議に移ることを、荒北はよく知っている。その行動に振り回される人間がちょこちょこいることも知っている。事実、自分も彼のことを場所によっては「フシギちゃん」と呼んで訝しんでいた。あの真波と何年も一緒にいるとなると、ストレスも溜まるのではないか。共に過ごした何年間の間にスルースキルが鍛わらないものかとも思ったが、この女子を見るかぎりそんな器用さとは無縁のようだ。結果的に総合すると、自分は校舎の隅でメソメソ泣いていたフシギちゃん真波 山岳の幼なじみを放っておけなかったのだ。――なんとそのまんまで、理由の解明にならない結果だろうか。

「あーっ、もうウゼェ! 泣き止むか理由話すかどっちかにしろっつの!」

 とうとうしびれを切らして、荒北は声を荒げた。大きな口が開いて、その口端を引き上げた。彼はとても気が短い。

 少女はまたもビクッと飛び上がると、おそるおそるといったふうに荒北を見上げた。ソファの背もたれに両肘を置いて、荒北はその視線を受け止める。大袈裟なくらいにつり上がった眉も、彼の特徴のひとつだ。

「たいしたことじゃ……ないんです」

 小さな声で、ようよう彼女は言った。けれど「ならいつまでもビービー泣いてんじゃねェよ、バァカ」と、荒北 靖友は容赦がない。「すいません……」と呟いて、再び彼女は顔を伏せる羽目になる。

「――真波か?」

 手っ取り早く、荒北は核心だとおぼしき点へ突っ込んだ。少女の体が今日一番、おもしろいくらいに跳ねた。

「お前あいつの幼なじみなんだろ?」

 さらに重ねて言うと、彼女は泣き顔をさらに悲痛なものにして口ごもった。これでは責めていると見られても仕方がない。荒北はグシャグシャと髪をかき回した。

 せめてここに東堂や新開がいれば。東堂は自意識過剰なちゃらんぽらんだが、なんだかんだで女子の扱いには長けている。ソツなくフォローして見せるだろう。新開にいたっては、こういうことに関して他の追随を許さない。優しく気の利いた言葉で、難なく彼女の涙を止めてしまうことだろう。なのにどうして、今この場にいるのが自分ただ一人なのだ。くそっ、と内心で叫ぶと同時に、本日17回目の舌打ちが彼の口から漏れた、その時だった。

「いつものことなんです」

 か細い声で、だが先ほどよりは確かな言い方で、少女が言った。

「いつもと同じように、私がさ……真波くんに、課題のプリントをやるようにって怒って……真波くんはいつものように、気にせず自転車乗りに行っちゃって。いつもそうなんです。なのに、なんでか今日にかぎって悔しくてむなしくて……涙が出て。変なとこ見せてすみませんでした」

 視線は膝の上に落とされたままだが、彼女の口調には落ち着きが戻っていた。状況説明ができる程度には、涙も引いたということだろうか。荒北も多少安堵して、彼女の話をよく聴くために、机の上に身を乗り出した。

「ちなみに課題ってなに」

 一瞬、メガネの向こうの瞳が、言いずらそうに右往左往する。

「えっと、真波くん、遅刻とか居眠りとか多いから……その、単位とか進級のための」

(おいおい、あいつそんなヤベーとこまでいってんのかヨ。遅刻魔なのは知ってたが、こいつァいよいよ笑えねェな)

 荒北は結構面食らった。それはずいぶんな一大事ではないか。いつもボンヤリとして、マイペースで、オンとオフの差が激しくて、坂を登ることばかりに興味を注いでいる変わり者だということは承知していたが、まさか進級が危うくなるほどだったとは。おまけに、それを回避するための手段さえ放置して、自転車に乗っているなどと。

(マジでバカだ、あいつ)

 荒北は仰け反って天井を見上げると、小さく溜め息を吐いた。

「……つか、もうほっときゃいいんじゃねェの」

 えっ、と零した少女が、パッと顔を上げる。

「あいつァ、オトボケたフシギ野郎の前に甘ったれなんだよ。勝手なことしてもなんとなぁく許されてるから調子に乗ってんじゃねェの。んで、だいたい許してんのお前だろ。お前がそーやってあれやこれや面倒見てやってっから、真波が自分でどうにかする力つけねんだヨ。この際『もう知らない』つって放置してみりゃあ、あいつも危機感持ってやり出すかもしんねェよ?」

 まくし立てると、少女は小さく縮こまったまま瞳だけを荒北に向け、黙り込んだ。いやに真摯な目をしていた。大きくてクリクリとしたそれを見ていると、メガネを外して髪を下ろせば意外とイケるかもしれないなと、彼は思った。細い三白眼や剣呑な表情からは、そんな思考はまったく気取らせなかったが。

「で、でも……さんがくは……」

 少女の体は震えていた。涙のせいではなかった。

「さんがくは、私の幼なじみなんです」

「だァかァらァ! ンなこと言って甘やかしてんのがワリィつってんだよボケ! 別に幼なじみだからって全部の面倒見なきゃいけない決まりなんかねェだろぉが。お前はあいつの母親かよ」

「で、でも! そうでもしなきゃ、さんがくは自転車ばっかりだから……」

「その自転車ばっかのせいでこーやって泣くハメになってんのに、学習しろよ」

「でも私、私がしたいんですっ! さんがくのために、なにか、自分のできることを」

 右手を持ち上げ、彼女はそれを胸元に当てると、ぎゅうと強く握り込んだ。

「さんがくは、自転車が好きなんです。自転車に乗ってる時のさんがくはすごく楽しそうで、応援したくなります。前はなにがそんなにいいのかって思ってたけど……さんがくが自転車に乗ってるところを見て、なんとなくわかりました。私、さんがくには頑張ってもらいたいんです。それで、私にもできることがあるならしたい。すこしでも、うっとうしがられても、言わなきゃいけないんです。それがさんがくのためにもなるはずだから……」

 堰を切ったように話し始めた彼女の焦点は、今や荒北には合っていなかった。

「これまでずっとそうしてきて、やっぱり今もやってることは変わりません。きっといつまでもさんがくの一番は自転車だろうし、私もいつまでもおんなじようにさんがくを叱ると思うんです。でもいい――、それでいいんです」

 キッと、視線が荒北を捕らえた。背中をビリリと電気が走るような、ひたむきで毅然とした顔だった。

「私は私のやり方で、さんがくの力になりますっ!」

 最初の泣きべそからは想像もつかない様子だった。

(一人でキレだして、一人で解決してらァ)

 ふぅと、荒北は息を吐いた。前のめりだった体勢を、再度ソファへと預ける。いまだギラギラとこちらを睨み付けている瞳に、無意識に口から「ハッ!」と笑い声が漏れた。

「重てェ女だと思ってたら、想像以上に重てェ女じゃねェの。あのふわふわした真波にはちょうどいいかもなァ」

 キョトンと、少女は瞬きを繰り返した。
「そんだけ覚悟決まってんならやるこたひとつだろ。せいぜいキバれよ、宮原チャン」

 本日初の荒北の笑顔だった。唇の端をつり上げたそれは、見ようによってはタチの悪そうな嘲笑にも見えるのだが、数時間この男と対峙してつかみ始めた雰囲気から、これがなんの嫌みもないものだと少女は悟った。瞬間、脳が冷静になる。今さっき自分が言い放った台詞の数々が思い起こされて、ボッと白い肌に火が付いた。

「あっ、ひゃ、あのっ……すす、すみませっ……!」

「“さんがく”ねぇ」

「ひえ――っ!」

 ニタニタと、荒北は笑う。少女は軽いパニックを起こして、バタバタと手を振り、真っ赤に赤面し、また思い出して悶絶しているようだった。

「てゆーか、ろくな見返りもねェのによくやってられんな、あんな奴の相手」

 何気なくよこされた荒北の言葉に、彼女は困ったように口を緩ませた。荒北の言葉には必要以上にトゲがあるが、悪気があって言っているわけではない。その点にも少女は気付き始めていた。

「見返り――、求めてたのかもしれません」

 荒北が片方の眉をピクリと動かすので、少女は片手を口元に添えた。すこしだけ、彼の強い視線から隠すように。

「さっきも言ったとおり、私は私のやり方でさんが――真波くんに、」

「今さらもういいっつーの」

「あ、すみません。さんがくに、なにかしたいと思ってるんです。でも今日、『ごめんね』って笑いながら走っていくさんがくの背中見てたら無性に泣けてきて……やっぱりさんがくにとって私はそういうものなんだって」

 笑った形に少女の口が開閉する。ムリムリだな、と荒北はその様を眺めた。そのムリムリな笑顔のまま、彼女は荒北に向き直った。

「でも、話聞いてもらって、ちょっと楽になりました。ありがとうございます……えと、荒北先輩?」

「るっせ、礼とかいらねェし」

 辛辣な返答よりも、疑問系で口に出した名前が間違っていなかったことに、少女はほっとしたようだった。順応力があるのかないのかわからない。

 荒北は、彼女の前に置かれたまま手を付けられていないグラスを指差した。

「――飲めば?」

「あっ、すみません、ありがとうございます」

 慌てて、少女はウーロン茶のグラスに口を付けた。泣いて喉が乾いていたのか、グビグビと喉を通過していく。やれやれと、ようやく荒北は肩の力を抜いた。己もコーラのグラスを持ち上げる。

「あの……今日はほんとにすみませんでした。それとありが――」

「しつけェ。だから礼とかウゼェつってんだろ」

「でも……こんな愚痴聞いてもらっちゃって、なんか申し訳ないです」

 何度目かの「ウゼェ」を「黙れ」に変えるべきか考えて、荒北はちょっと止まった。そこでふと、彼にとっての愉快な提案が浮かぶ。にんまりと悪い笑顔を作り、荒北はグラスを持った手の人差し指を立てた。

「じゃあお前、真波に告ったら一番にオレに教えろヨ」

「え!? こ、こく……っ!?」

「ンだその反応。告る予定ねェわけ?」

「あ、ありませんよ! そんなっ……別に私はそんなんじゃ」

 真っ赤な顔でしどろもどろに言い訳されても、説得力に欠ける。「ボサッとしてっと他の女にかっさらわれっぞ。オメー地味だしなァ」という荒北のからかいにまた泣きそうになっているくせに、よくもそんな見栄が張れるものだ。



 それから数日経った昼休みのことだった。

 荒北はバッタリと、廊下を歩く黒髪おさげのメガネ少女とはちあった。荒北が口の中で「んあ」と声を上げている間に、その女生徒はトコトコと彼に近寄ってきた。心なしか、頬が赤く染まっているようだ。

「荒北先輩、さんがくになにか言いました?」

 開口一番、少女は荒北にそう尋ねる。荒北は今度は「んあ?」と、疑問符を付けて返した。

「このところ、さんがくが妙に素直なんです。遅刻もしないし、宿題もきちんとしてきてるし、授業中も起きてるし。だから、荒北先輩がさんがくになにか注意でもしてくれたのかなって」

「ハッ! それが普通の学生の姿だろォ。別におかしくねェじゃねェか」

 しかし、少女は納得していないようだった。おそらく荒北の訳知り顔の笑みのせいだろう。むうっと眉を顰めてこちらを見ているが、荒北はくつくつと喉の奥で笑うだけだ。意地が悪いなと、彼女の目つきが言っていた。


       ・


 二日ほど前の話である。


「……荒北さんって、委員長と仲良かったですっけ」

 荒北の説教を口半開きで聞いていた真波は、彼の語尾にそう言葉をかぶせてきた。

「最近お知り合いになってなァ。交流をあたためてるところだ」

 荒北は笑う。いつもの彼の、歯をニィッと露出させる笑い方で。

「ちゃんと見とけよぉ? 首に縄付けてるわけじゃねんだから。『ハウス』が利かなくなったらおしまいだぜェ?」

「委員長は犬じゃありませんよ」

「そうだ、人間の女だ。でもちゃんと見張ってないとってのはホントだぞ。男はこの世にいくらでもいんだからヨ。オレにまで泣きつくってのはよっぽどだ」

 真波はいつものとぼけた顔で、けれどけっして荒北から目を逸らさなかった。傍目には読めないその瞳がいかに雄弁にものを語るか、部の人間は知っている。こみ上げる笑感が抑えきれず、荒北の口端がもう一段階つり上がる。彼はスイッと、真波 山岳のベビーフェイスへ鼻先を近付けた。

「覚えとけヨ。幼なじみってのはいつまでもナカヨシコヨシしてられるもんじゃねェぜ?」

 たっぷりとしたねちっこさを含んで言ってやる。真波は微動だにせずに、それを受け止めた。束の間、視線が交戦する。先に身を引いたのは荒北だった。唇には三日月を描いたまま、丸めていた背筋を伸ばす。真波の髪の毛の間から覗く瞳が、張り手のように荒北に攻撃を仕掛けていた。それをバシリと受け止めて、荒北は踵を返した。すると、

 「荒北さん!」背中に声がかかる。

「男はいくらでもいるって、その中に荒北さんは入ってるんですか?」

 その問いかけに、荒北 靖友が振り返ってよこしたのは、

「もちろん」

 この一言だけだった。


       ・


「なんだ、あいつ意外と単純じゃナァイ」

「え?」

 宮原――真波が言うところの“委員長”が首を傾げる。それを見て、また荒北はクックッと笑った。委員長の頭上にハテナマークがぽんぽんと浮かぶ。

 ニブいのァお互い様だな。やはり言葉にすることはせず、荒北は思った。おもしろいので、しばらく泳がせてコイツらの顛末を見物するのも悪くはないかもしれない。どうせたいした時間は要さないだろう。「まあ、ちゃんとするのは今だけだと思いますけど」と口を尖らせて見せる目の前の女生徒も、なんだかんだと追い立てられながらもこの女子の相手をする後輩のクライマーも、まんざらではない様子なのだから。

「オメーやっぱ早く告っちまえよ」

「!? まっ、またそういうことを――!」





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