月曜日、教室についた私の机の上には謎の手紙が。

よく見ると宛名は私宛になっていた。


……誰かのイタズラ?

それとも……


開いてみるとそこにはこう書かれていた。


『高尾君にちょっとよくしてもらってるからって調子乗ってんじゃねぇよ。
あんたみたいな子が本気で相手されるわけねーだろ。
若尾君の優しさに甘えて媚売るのも大概にしとけよ。』


……一体何なんだ、これ。

そもそも私は高尾君に良くしてもらって調子に乗っているなんて事はない。
それに、彼の優しさに甘えてるつもりも……まぁ、全くないと言うわけではないが下心はない。

高尾君だって私の事を面白半分で相手しているだけだろうに……

全く、女って言うのは本当にめんどくさい生き物だ。



「とどのつまり、高尾君に近づくなって事か。」


そしてその日から、私はあからさまに高尾君への態度を変えた。



昼、いつも通り彼が教室まで来る。


「名前ちゃん!」

「用もないのに来ないでよ。」

「用ならあるよ。俺の妹がプレゼントすっげー喜んでくれてさ!
名前ちゃんの話したら今度会いたいって言うから…。
あと、今日も一緒に昼食おうぜっ。」

何でそういうことを今この場で言うんだろうか、この男は。
空気が読めない奴なのか!?

「…そ、でも全部高尾君が決めた事だって言ったでしょ。
私はこれ以上あなたと関わりあうつもりもないの。
お昼ももう食べ終わったから良い。…用はそれだけなら帰って。」

「ちょっとぉー苗字さん!そんな言い方したら和成君可哀想だよぉー。」


……こいつが全ての現況か、

確か鈴木……だったか?クラス一可愛いとか男子からちやほやされて調子乗ってる…。

化粧落としたあんたの顔すげー悲惨なのに。


「別に。私なんかと関わる理由が分からない。」

「名前ちゃん今日は機嫌悪いねー。」

「みたいんだねっ、じゃあ和成君!姫と遊んでよ。
姫、和成君のバスケはなし聞くの大好きなんだぁー。」

そういって高尾君の腕に絡みつく。

……きもちわるっ、


「んー…じゃ教室帰るわ俺。」

「…ぇ?」

「名前ちゃんお言うとおり、俺の用は終わったわけだし。
これ以上いると授業遅れそうだしなっ!」

それだけ言うと彼は教室から出て行く。

ちょっと待て、まだお昼始まったばっかりだぞ、遅刻するわけないだろ。
この状況見て帰るか普通?


「……むかつくなー。」

知るか、勝手にムカついてろ。むしろ私のがムカついてるわ。


「苗字さん、ちょっと良いかな?」

「…はぁ。」

屋だって言ってもめんどくさいし……行くか。
どうせこのクラスの連中の大半が私の事よく思ってないから助けてくれる人もいないし……。









*

「…名前ちゃんが変。」

「そんなこと俺の知ったことではないのだよ。」

あの後教室に戻った俺は今までの事を聞かれてもいないのに真ちゃんに話した。


「昨日まであんなに普通だったのに……俺何かしちゃったのかなー?」

「知らないと言っているだろう。
…第一、元からお前が苗字に好かれているとは俺には思えんがな。」

「そういうこと言うなって。…俺マジなんだぜ。」

尚更知らないのだよ、


嘆く高尾を無視して一人弁当を頬張る緑間。


「…そういや珍しく姫っつー女が絡んできたな。
さして知りもしないのに俺の事名前で呼んできて苦手なタイプだ…。」

「お前にも苦手な奴がいるとはな。
…だが、その姫と言う女なら俺も聞いたことがある。」

「どこで?」

あの真ちゃんがクラス以外の関わり合いのない女子を知っているなんて!!
あーでも姫って子は可愛いって当初騒がれていたような……。


「中学が一緒だったのだよ。頭だけは良かったからな。
噂話だが、自分の気に入った男がいればどんな手を使っても落とすそうだ。
そいつに恋人がいたり邪魔するような人間がいれば、容赦なく引き離すみたいなのだよ。」


つまり……俺は姫って女に気に入られたって事?
俺はさして好きでもないのに?

名前ちゃんに勝手に嫉妬して俺から引き離そうって……?


「俺、そういう女が一番嫌いだわ。」

「俺に言われても知らないのだよ。」

「高尾ー。」

「…何。」

「お前が最近よく会いに言ってる女。さっき鈴木姫って奴に連れてかれてたぜ?
何か良い雰囲気じゃなかったし……やべぇんじゃね?」


ガタッ…


「後、頼むわ。」




「……食事中にホコリをたてるな、バカ尾。」







*

「ねぇ、何処まで行けばいいの?」

「黙って着いて来いよ。……ここでいっか。」


ものすごい怖い顔しながら最上級のぶり声で呼ばれたので着いてきた。
ここは体育館裏。

……べた過ぎだろー、せめてトイレにしとけよ。
って、そういう問題でもないか。


「和成君から離れて頂戴。」

「私は近づいてるつもりないんですけどね。」

これは事実だ、ただの一度も私から彼に近づいたことはない。
いつも彼のほうから勝手にやってくるのだ。それを近づくなと言われても無理がある。


「私和成君に恋してるの。苗字さんなら応援してくれるでしょ?」

「応援するつもりはないけど頑張ってください。」

「……和成君がちょっと優しくしてくれるからって付け上がりすぎじゃない?」

「だから私は付け上がってないって。
そもそも、私と高尾君は鈴木さんが思ってるような関係じゃないから。」

「じゃあ何なのよ!!昨日あんたと高尾君が駅前でデートしてるのみたって奴がいるのよ!!」


何でそういうときだけまんがっ見たいに見てる奴がいるんだよ!!
見たとしても黙っとけよ、めんどくさい。


「はぁ……。」

「それに和成君にマネやらないかって言われてるらしいじゃない。
挙句それを断った!?調子乗ってないって言うほうが無理あるでしょ。」

「私がマネやろうとやるまいと、鈴木さんには関係ないでしょ。」


バシン!!


「……。」

「私知ってるんだからね、あんたがマネをやらない……いや、やれない理由。」

「!!」


こいつ……っ。



「周りに知られたくないことでしょ?
だったらあんたの気持ちなんて関係ない。
和成君に近づかないで。」

「……分かったわよ。」



その言葉に満足して鈴木姫はさっさと教室に戻って言った。


残された私はそこから一歩も動くことが出来ず……



でも、次の瞬間には誰かに腕を引かれそのまま体が後ろに倒れる。



「……やっ!?「名前ちゃん…っ!」


この声……っ


「高尾…君っ!?」







どうして人間とはこういうときに限って自分を守ることしか出来ないんだろう。



「クラスの奴に姫って子に連れてかれたって聞いて…「離して!」

「!」


……もしかしたら、鈴木さんの言うとおり私は彼の優しさに甘えていたのかもしれない。


「名前ちゃん?やっぱ何かあったよね。
姫って子に俺とのことでなんか言われたんじゃないの?」

「高尾君には関係ない。…もう私に近づかないで。」



居場所なんてないのに。


そんなこと、分かってるはずなのに。




「……どういう意味だよ、それ。」




彼が私に居場所を与えてくれたから私はそれに甘えてしまったんだ。




だから、もう甘えちゃだめなんだ。


だって彼はきっと同情で私の傍にいてくれてるんだから。
彼を無意識に頼って私がこれ以上彼の傍にいれば彼に迷惑だ。






だから。





「分からないの?高尾君が嫌いって言ってるの。
最初から全部迷惑だったのよ、あなたの行動全てが。」





私はもっとも卑劣なやり方であなたから遠ざかる。






だからお願い、


そんな顔しないで。

その目で私を見つめないで。




これ以上君の視界に 私を入れないで。



私は………




この気持ちを抑えるために。

(自分を守るためと言い聞かせ、)

(私は今日、たった一人の友人を傷つけました。)







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