某月某日 午前10時5分前。
今日は学校が休みの日。

私は今とある駅の噴水の前にいる。

……何でこんなところにいるのかって?




あれは金曜日の夜だ。

寝ようと思っていたら突然携帯がなった。開いてみると高尾君からのメール。


XX/XX 23:35
Sub 無題
本文

夜遅くに悪ぃ。
まだ起きてるか?

明日って暇?
実は俺の妹の誕生日が近いんだけど
まだプレゼントかってなくてさ。
俺には女の子が好きな物とか分かんないから
名前ちゃんが暇なら買い物に付き合ってくれない?

もちろん、付き合ってくれたらちゃんとお礼するから!


 -END-


なんてメールが来た。
高尾君、妹さんがいるんだ…とそっちに驚く。

と言うか何で私に頼む?クラスの人気者(と誰かが言っていた)高尾君ならクラスの女の子に聞けば事すむ話なのに…。

体育館で会って以来、やたらと私に絡んでくる。
教室に一人でいる私を哀れんでるのかな?


……なんて事を考えながら一つ気になったことと共に返信を打つ。


XX./XX 23:40
Sub Re;無題
本文

起きてたから大丈夫。
特に何もないよ。
けどバスケ部は練習あるんじゃないの?

あと、お礼とか気にしなくて平気だから。


-END-


我ながら淡白なメールだと思いながら返信を返すとその3分後には返信が。

…高尾君ってメールの返信早いな。


XX/XX 23:43
Sub Re;Re;無題
本文

明日は体育館に補修工事の人が見に来るとかで
15時まで体育館が使えないんだってさ。

だから久々に一日暇ってわけ。

本当?ありがとな!
じゃあ明日朝10時に駅前の噴水前で良い?

御礼は俺がしたいからするの!
大したものじゃないから期待しないように!

じゃ、楽しみにしてるわ。
お休み。


 -END-


……何というか、勝手に説明して勝手に決めて勝手に終わらせたな。



まぁいっか。








*

と言うわけで私は今駅前の噴水前にいる。
ちなみ今の時刻は10時3分。

…同学年の子とお出掛けなんて何時振りだろう、何て思っていると目の前に影がかかる。


「ぁ、高尾君。」

「はぁ……遅れてごめん!」

額にうっすら汗が出ているから走ってきたんだ…。
別にそんなに急がなくても平気なのに。

「ううん、平気。行こ?」

「へ?…あ、あぁ。」


「何が好き?」


「……へっ!?」

「妹さん。好きなキャラクターとか好きなものとか…。」

「あ…あぁ、えーっと。」


名前ちゃんをデートに誘うと決心してメールした昨日。
絶対断られると思っていたのに返事は意外にもokとのこと。

だが大変なのはその後。
寝ようにも明日名前ちゃんに会えると思ったら中々寝付けない。

で、案の定目が覚めたら9時45分。完璧遅刻だ。
俺はありえない速さで着替えをして急いで家を飛び出す。

駅までは走って6分くらい。今の時刻は9時58分。

あぁ、最悪だ俺。自分から誘っておいて遅刻するなんて…。


でも着いたら名前ちゃんは全然怒ってなくて(まぁ遅れたと言っても3分だけだし)
だけど初めて見る名前ちゃんの私服に俺は言葉を失った。

ワンピースにサンダル、それに上に羽織ものをしていて……
パステルカラーのそれが名前ちゃんによく似合っている。

おかげで名前ちゃんが何か言っても全く耳に入ってこない。


やばい……かわいすぎる…!!

よく恋をするとフィルターがかかると言うが全くその通りだ。
いた、フィルターなしに彼女は可愛いけれども。


「…はぁ。」

「…高尾君?…おーい?」


…高尾君が変だ(元からこんな感じだった気もするけれど)
待ち合わせ場所についてからどこか上の空で話しかけても生返事ばっかり。

これじゃあ妹さんのプレゼント選びが一向に終わらない。



「あ。」

「え?」

「あれ…。」

そういって高尾君が指差した先には今小中学生の女の子に人気のゆるキャラが。

「"てっちゃんまん2号"がどうかしたの?」

「妹がこの前あれの話すごいしてて…。」

「へー…あれなら文房具から小物まで幅広くあるからいいかもね。」

こうして俺はてっちゃんまん2号(どんなネーミングセンスだよ)のキーホルダーとシールつきお菓子を買った。

今の時間は13時。朝寝坊して何も胃に入れていない俺はお腹が減って仕方ない。


「案外早く見つかってよかったね。」

「…あ、うん。」

「………。」

「………。」

沈黙が気まずい。

というかこのまま"じゃあね"ってなったら昨日の俺の苦労が水の泡だ。


「あのさ、」

「ん?」

「俺寝坊して朝食べてなくて……そこのカフェでお茶しない?
今日の買い物のお礼に俺がおごるからさ。」


すると名前ちゃんが笑った。

初めて見た、彼女の笑顔。可愛すぎて俺このまま死ねるかも。


「お礼はいいって言ったじゃん。私もお腹減ってるし…行こっか。」


こうして俺たちは近くのカフェでお茶をすることに。

特に何の話をするわけでもなく、お互いの事を話す。

名前ちゃんは3人家族で一人っ子。趣味は読書、もしくはピアノ。
秀徳に来た理由は単に家が近いから。

もっとしっかりした理由や目標があるのかと思いきや案外適当なんだな、

そういった直後、一瞬だが名前ちゃんの顔が曇った。
普通の奴なら見逃しそうなそれも、俺には分かった。


「私の話はもう終わり。」

そういって名前ちゃんは話題を逸らした。
俺もこれ以上無理に聞いて嫌われてもあれなのでそのまま別の話へ…。







そしてあっという間に夕方になった。


「んー…今日は楽しかった。」

「いや、こっちこそ買い物に付き合ってくれてさんきゅ。
おかげで妹が喜びそうなもん見つけられたわ。」

「何言ってんの。見つけたのも選んだのも高尾君じゃん。
…明日からまた練習?」

「まぁな。」

「…頑張ってね!」


あぁ、今日は一日楽しかったな。
高校は言ってこんなに楽しかったの今日が初めてかもしれない。

高尾君と知り合ってまだ一週間も経っていないのに彼は私の人生をあっという間に変えてしまった。
独りぼっちじゃないって、こんなに嬉しいことなんだな。



……だから私は油断していたのだ。

孤独な奴が居場所を与えられてはい幸せですなんて所詮漫画の中だけ。

現実はそんなに甘くないし、誰に何時恨みを買うかなんて誰にも分からない。


だから気付けなかった。

歯車が少しずつずれ始めていることに…。






*

高尾side


名前ちゃんと分けれてすぐ、

あ、結局お礼してないな
とか
そういえばこの流れで告っても良かったかな
とか
今度練習だけでも見に来てよ、バスケ嫌いのままでもいいから

とか、

言いたいことは沢山あったのに……




カフェに入って名前ちゃんの話をしたときに彼女が見せたあの暗い顔がどうしても頭から離れない。

彼女は俺に嘘をついている。
バスケが嫌いっていうのも多分だけど嘘だろう。

本当はバスケが大好きで……秀徳のバスケ部のマネだってやりたいはずだ。


だけど、何らかの事情でそれが出来ない。



一瞬の表情だったけど俺にはそう感じられた。

けど、その理由を知るには俺たちはまだお互いを信頼できていない。




あぁ、明日からまた地獄のような練習が始まる。


だけど俺はこれ以上の地獄が降りかかることを

このときはまだ知らないでいた。




今日の天気は曇りのち…曇り。

(…私、バスケがこの世で一番嫌いなスポーツなんです。)

(私は今日も自分にそうやって嘘をつき続ける。)




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