「一目惚れとか俺がするわけないっしょ。」


昔、友達と恋の話になったときにそう断言したことを今でもよく覚えている。
そう断言してから数年もしないで俺はその言葉を裏切った。


なぜ彼女だったのか、どうして好きになったのか……。

そんなことは今も分からないけれど……とりあえず一つ言える事、それは………。









*


「名前ちゃんが好きだ、」

「……たか、おくっ…。」


一瞬、何が起こったのかわからない。
気がついたら彼の腕が目の前に来てそのまま彼に抱きしめられて告白された。


「……ごめんな、いきなり。本当は名前ちゃんを傷つけた俺がこんなこと言っちゃいけないんだろうけど…我慢できなくて。
事故にあって病院に運ばれたって聞いたとき、マジで心臓止まるかと思った。だから目覚めたら絶対に言おうって決めたんだ。
何時また今日みたいなことで命落とすかもしれない事態に巻き込まれないって言い切れないわけだし……。」

何も言わない私をよそに彼は次々に言葉を発する。
…まるで私がこの告白の返事をするのを畏れているかのように。


「あの事故、相手の車の余所見運転だったって…。
でも名前ちゃんも携帯に夢中になっていたからその車に気付くのが遅れたって通報した人が教えてくれた。」

「……ごめん、普段は歩きながら携帯なんていじらないんだけど…。あのっ…。」


「悪いのは俺なんだ。」

「え?」

「あのメール…真ちゃんの携帯を俺が勝手に借りて名前ちゃんに送ったんだ。
俺の携帯からそんなメールが来ても名前ちゃん、来てくれないと思って……。
でも結果こんな事態になった。…俺のせいで…っ「何で高尾君のせいになるの!?」

「…っ。」

どうして、何時もいつも自分が悪いから、俺のせいで…って。

「悪いのは全部私なのに……高尾君の優しさに甘えて高尾君を傷つけて……なのに私は悪くないって…っ。」


いっそ怒鳴り散らして私の前から消えてくれればいいのにと思ったことさえあったのに……。



「言っただろ、名前ちゃんに一目ぼれしたって。名前ちゃんにかけられる迷惑なら俺は大歓迎なわけ。」

「……どうして。」

「ん?」


ふいに、彼と目が合う。鼻に汗のにおいがつんと来る。
あぁ、練習で疲れていたのに走ってきてくれたのかな…

そんなことを考えながら私は彼に一番聞きたかったことを聞いた。


「何で私なんかに一目ぼれしたの?…私なんて何の取り柄も無いし目立たないし…。」

卑屈になってるわけじゃないけれど高校生に上がってからは周りからそう見られてもおかしくない行動をしているのだから
彼がどうして私を好きになってくれたのか……それだけがどうしても分からない。


「あの、って言うか恥ずかしいから離れて欲しいんだけど。」


ものすごく今更な気もするが、すごく恥ずかしい。


「あ、もしかして照れてる?名前ちゃん可愛いなー。」


そういいながらもそっと距離をとってくれる。こういうところも彼の優しいところだ。


「理由って言われるとないんだよなー。ただ、冗談じゃないからな。
…なんだろ、名前ちゃんを人目見た瞬間に運命を感じちゃったと言うか何というか……。」

高尾君でもそんな夢見がちな発言するんだと内心驚く。
いや、元々彼と言う人間をそこまで知っているわけじゃないから元がこういう人なのかもしれないけど。


「……運命、か。」

「名前ちゃんはそういう運命とかって信じないほう?」

「…かもね。お兄ちゃんとお父さんが死んでからは余計にそういうの信じなくなったかも……ぁっ。」

そういえば高尾君にはお兄ちゃんやお父さんが死んだ話……私がバスケをやらないわけを離してなかったっけ。
言ってしまった手前、やっぱり彼にも全部話すべき……「その話しなら真ちゃんから聞いた。」


「……えっ!?」

まさかあの緑間君が人にこのことを話すとは予想外だったので驚くしかない。

「俺が馬鹿だから見かねた真ちゃんが背中押すために話してくれたんだ。
聞いた後にこれは本人の口から聞くべき事だったなって後悔した。でも真ちゃんを責めないで欲しい。」

「いや…別にそれはいいんだけど…。」

「理由聞いてから俺って本当考えなしだなって改めて思ったわ。
そりゃバスケがらみでそんだけ大切な日と失くせばマネとかやりたくないよな。
……無知は罪、って…よく言ったもんだよ本当。」

そういって君はまた悲しい顔をする。


違う、…違うの。

私は君にそんな顔をして欲しいわけじゃないの。
バスケを嫌いになろうとして、高校で友達と呼べる子もいなくて……



そんな私を救ってくれた太陽は……高尾君だった。






「……っ、の。」

「…え?」

「私、本当はバスケが好きなの…っ、
どれだけ大切な人を亡くそうと、だから嫌いになろうとしても……どうしても嫌いになれなかったっ…!
そんなジレンマを抱えてるときに出会ったのが高尾君だったの。」


きっかけは担任から頼まれたプリントのホチキス止めだった。
日直だからやれとか何なんだ、とか、職員室にもいないなんてどこにいるんだ…とか。


あぁ、今思えばそのどれかが欠けていたら私は高尾君と出合えなかったんだと思う。


「最初は軽そうな人で私見たいな人間をからかって楽しんでるだけなんだって思ってた。
…でも、実際関わっていく中でそんな人じゃなくて、暖かくて優しくて……太陽みたいな人だった。」


「……太陽?」


馬鹿みたいに明るくて煩いやつ、そう言われる事はあっても耐用みたいだ、何て初めて言われた。

やっぱり彼女は普通の女の子じゃない。


そりゃ一目ぼれするわ、俺。




「バスケを嫌いになって心を閉ざして行く私に明るく日の光をくれて……バスケを好きでいて委員だって思えるようになったの。
だけど私が高尾君の傍にいたらいけないんだって思うようになっちゃって…。」

それはつまり、鈴木姫の事をさしているんだろう。


「だから諦めようと思ったの。またいつもの独りぼっちの生活に戻るだけだって……。
でも緑間君に本当はどうして高尾君が私にここまでしてくれるのか分かっているんじゃないのかって言われたら我慢でなくて…っ。」


グダグダと何時までも過去の事を話していても仕方ないと分かっているのに……
素直になれない私は結局回りくどくて……。








「私も……高尾君が好きです。」






でも、もう素直になってみてもいいだろうか。
お兄ちゃんが約束を守れと言ってくれた。お父さんが彼なら大丈夫だと言ってくれた。



それなら私も、自分に素直になっていいんだろう。






「……!!」


何も言わないで目を見開いてこっちを見ている、

が、正直返答してくれないときまづいことこの上ないし恥ずかしい。


「あのっ「やっべ、超嬉しい!!」


そういうや否やまた私に抱きついてきた。しかも今度は遠慮なく。



「うぇ!!?」

「まさか名前ちゃんも同じ気持ちだ何て思わなかったわ。…ずっと嫌われてると思ってたから。
…もう二度と名前ちゃんを傷つけないようにする。」

「……高尾君。」


そして私はもう一つ。



彼に言わなければいけないことがある。




「高尾君、私の負け。



秀徳高校男子バスケ部マネージャー、やらせていただきます。」



「……!!ほらな、絶対言わせるって、俺の言ったとおりになっただろ。」

「……うんっ。」




そしてその後孝雄君から病院だと言うのにお構いなくキスをされ
その直後、タイミングを見計らったかのように緑間君と鈴木姫が入ってきた。











*


「はい、休憩です!10分後に再開するので各自水分補給等しっかりして下さい。」


現在の季節は夏。インターハイの本線間じかと言うこともあって練習にも一層の熱が入る。



「あつー、名前ードリンクー。」

「そこにあるでしょ!私も忙しいんだからドリンクぐらい自分でとりに行きなさい!」

「…ちぇっ、部活中は人が変わったようにつめてーな。」

「和成君にだけ態度よく出来ないでしょ!みんな平等。」


なんて、こうして何気ない会話が出来るのも実は嬉しかったりする自分がいる。



「そこー、暑いんだからいちゃついてんじゃねーぞー。」

「先輩…!いちゃついてないですから!」





ぎゃあぎゃあ騒ぎながらこうして今日も部活の時間は過ぎていく。



あの後……病室に緑間君と鈴木姫が入ってきたとき、高尾君はその場で鈴木姫にきちんと謝ってけじめをつけた。

彼女も緑間君に何か言われたのか……何だかんだ悪態をつきながらもとんでもない事実と共になきながら謝ってきた。

どうやらあの余所見運転の事故は彼女が知り合いに頼んで私を狙わせたものらしい。
当てるつもりはなく、ちょっと驚かせる程度だったのだがいかんせん当たってしまった。


まぁ無事だったから良かったけど死んでたらどうしてくれんだって話。
それに私以外にも巻き込まれて人がいたらどうするんだと……病み上がりだが彼女に怒鳴った。

高尾君はそれ以上に怒りをあらわにしていたけれど彼女も反省していたし許すことにした。
何だかんだ活きているのだから、一生そのことを忘れないでいてくれるのなら何でもいいや。



「名前!帰ろうぜっ。」

「あ、うん。」


それに、彼女がいなかったらこうして和成君と付き合えなかったかもしれないんだしね。





「すっかり夏だねー。」

「暑くて解けそうだわー。」


もうすぐ始める本選、負ければそこで私たちの夏は終わる。



「必ず秀徳を日本一にして見せるからね、お兄ちゃん!」


「あ、そうだ名前。前々から一個言っておきたかったんだけど……」



グイッ


「!?」







能ある鷹は君を奪う。

(だから俺から離れられると思うなよ?)

(それって能ある鷹は爪を隠すじゃ…)

(細かいことは突っ込まない!)

(元々逃げる気もないけどね。)

(はっ、そりゃ安心だ。)



お兄ちゃん、お父さん、





今日も私は バスケが大好きです。










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