「和成ー!帰ろう?」
「……部活だから。」
鈴木姫とやらに脅され付き合うことになってから早3日。今日は金曜日。
あれから名前ちゃんとは一回も喋っていない。
と言うか名前ちゃんと鈴木姫が同じクラスである以上、姫に監視されて声を掛けることすらかなわない。
いつもならこんなめんどくさいことしないのに……
例え好きな女だとしても好きでもない女の言うことにここまで従うなんてしないのに…
「よっぽど好きなんだな、俺。」
「それって姫の事?…なんか恥ずかしいっ。
姫も和成の事好きだからね!」
勝手に言っててくれ。俺はお前なんか好きじゃない。
……なんて、最低な男だな俺は。
「高尾、」
「……真ちゃん。」
名前ちゃんとの一件以来、どうも真ちゃんとも気まずくなった気がする。
まぁ、部活中はお互い気持ち切り替えているから問題ないけれど……いや、俺のほうは問題ありか。
「話があるのだよ。」
「あー、今から部活行くし、行きながら聞くわ。
じゃあそういうわけだから姫チャンまたな。」
「もぉーー!明日は姫を優先させてよねぇー!」
俺の事が好きなら俺が部活頑張る姿を見たいとか応援したいとかないのかよ。
本当、あぁ言うタイプの女の子は俺には理解できない。
「…さんきゅー、正直めんどかったから助かったわ。」
「…何のことか分からないのだよ。それに、仮に今の状況が苗字を守るためのものであったとしても
自分で鈴木姫と付き合うと言った以上そんな風にけなすのはどうかと思うのだよ。」
相変わらずの真面目人間だ。
こういうところは俺と全く違う……まぁ新ちゃんの言うことに対して反論できないのも事実なのだけれど。
「ははっ、手厳しいな。…で、話って何?」
「……苗字と話したのだよ。」
「へぇー、真ちゃんが自分から女子に絡むなんて珍しいじゃん。」
俺がいない間に名前ちゃんと2人きりで話していたのかと思うと心がモヤモヤする。
……俺ってこんな心狭かったっけ?
「あいつは高尾がどうしてここまで自分を守ろうとしてくれるのか分からないと言っていたのだよ。」
「ま、そりゃそうだろうね。あって間もない人間だし……得体の知れない奴って思われてるかもな。」
「だが俺が思うに苗字は高尾の気持ちに気付いているはずなのだよ。」
まじかよ……いや、それはそれでいいとしてもやパリなんか恥ずかしい。
「なのにそれに気付かない振りをしてまた一人になろうとしている。」
「……。」
「正直、これは高尾と苗字と鈴木の問題であって俺には何の関係もないのだが
普段の練習に差支えが出るようであれば話は別なのだよ。
苗字が言っていたのだよ。自分で決めたことを突き通せないでプレーに影響するのはメンタルが弱い奴だ、と。」
「ははっ…さすが俺の見込んだ女の子だ。…ずばずば言うね。」
「らしくないな。」
「ん、分かってる。…けど、もし俺の勝手で名前ちゃんが学校にこれなくなるようなことがあったらって思うと怖くて…。
鈴木姫が俺と付き合うことで名前ちゃんに害がないならそれが一番なのかなって…。」
こんな気持ちのままでいちゃいけないことは自分が一番分かっているのに…。
「……あいつがなぜ頑なにマネージャーになるのを拒んでいるか、知っているか?」
「バスケが嫌いだから、だろ?」
「……本人の許可もなしに本来こんなことを放すべきではないのだが……
バカ尾には全部話さないと変わりそうもないから話すのだよ。」
*
「……一体何ですか?」
時刻は放課後、多くの生徒が部活やら帰宅やらでせわしなく動いてる中
私はなぜか鈴木姫に呼び出されて再び校舎裏にいる。
「和成がどうしてもあんたを忘れられないみたいなのよねー。」
「…そうですか。」
最近高尾君とは喋ってもないし姿も見ていない。
おそらくと言うか……鈴木姫の仕業なのは明らかだ。
「だからぁー、消えてくんない?」
「言ってる意味が分からないです、別に私が悪いわけじゃないですよね。」
とかいいながら高尾君がまだ私を気にかけているという事実が素直に嬉しい。
どうしてこんなに嬉しいんだろう……高尾君はただ単に同情で私の傍にいてくれただけだって言うのに…。
「あんたがこの学校からいなくなればいいって言ってんの。」
「…はぁ、本当バカって嫌になるわ。」
もういい加減この人の前で猫かぶって話すの疲れるわ。
ドンだけ傲慢でワガママでお嬢様なのよ。
「……は?」
「あんた自分がオヒメサマにでもなったつもり?私はこの学校を辞めるつもりもあんたの言うことに従うつもりもない。
大体、彼氏が自分に振り向いてくれないって…そんなのあんたに魅力がないからじゃないの?
自分で努力してもっともっと見てもらおうとしてるわけ?
人のせいにしてぶりっこして……当たられる私のみにもなって「るっさい!!」
バシッ…!!
……あぁ、だから女嫌なんだ。
何かあるとすぐに平手……ぁ、男よりはましか。
「はぁっ…はぁっ。…っ!こっちはずっと片想いしてたのよ!
和成は忘れちゃってるみただけど私は幼稚園のころからずっと和成一筋だったのよ!!」
おぉ…まさかの幼稚園が一緒だったんだ。
ってか、そこまで一途に好きだったなら他の男に色目使うなよって話。…わけわからんわー。
「あっそ。…でも尚更私は関係ない。私は高尾君にもう関わらないっていわれたの。
鈴木さんが毎日孝雄君にあってるなら分かるでしょ?
私は高尾君と喋ってない。…悪いけど、急いでるから帰るね。」
そういって返事も聞かずに私はさっさと校舎裏を後にする。
今思えばこのときちゃんと鈴木さんと話していればよかったのかもしれない。
いや、話していたとしても彼女は止められなかったか。
でも、
少なくとも
あんな目にはあわなかっただろうに……。
「……やっぱり名前ちゃんには痛い目にあってもらうしかないわね。
……もしもし?私。この間言ってたあれ、決行して頂戴。」
ピルルルルル……
「…メール?緑間君からだ。」
何だかんだあの話の後にメアド交換したんだっけ。
まぁ学校で高尾君という友達を失った今では緑間君が唯一の友達と尾言うことになるのだが……
XX/XX 17:34
Sub 無題
本文
明日13時より秀徳高校にて練習試合。
必ず来い。
-END-
……わけがわからない。
なぜこんなに上から目線でいわれなきゃならないんだ。
……明日、13時。
「行こうかな……鈴木さんの姿が見えたらばれないように帰ればいいわけだし、
それに、緑間君からって言えば大丈夫だよね?」
でもこのメールの文章、緑間君っぽくないなぁ。
いくら彼が無愛想と入ってもこんな上からなメールをよこすとは考えにくいし……
了解、暇があったら行くね。
そう打って返信しようとした次の瞬間
キキィイイイイ!!!!!
「―――……!!?」
気がついたときには目の前が真っ白になっていた。
そしてなぜかふいに高尾君の悲しそうな顔が思い浮かんでしまった。
明日、待ってるからな。
(真ちゃん、さんきゅー。)
(…人の携帯で勝手にメールするな。)
(名前ちゃん、俺――……。)
(高尾君、私ね………。)