ep.9

二ヶ月ぶりのガウェインさんの部屋は相変わらずのシンプルなインテリア。少し変わったところ言えばジャケットが数枚ラックにかかっていることだろうか。

「何か飲むか?」
「職場出る前に飲んできたので」
「ん。りょうかい」

貰い物であろう缶に入ったクッキーだけを小脇に抱えてキッチンから私の座っているソファまで歩いて来るガウェインさん。彼が自分に近づいて来るだけでどきどきして体がぽ、と熱を持つのがわかる。

「服玄関に置いてあるから忘れねえようにな」
「はい。洗濯までしてもらって…すみません…」
「気にすんな」

ぽん、と頭に乗せられた手はすぐに離れていってしまった。手のひら一つ分空いた距離を詰めようとするが体は動かない。そんな私を襲った突然の腹痛に眉を顰めた。

「うっ」
「どうした?」
「あ、いえ…なんでもないですっ」

今になってコーヒーが効いてきたようだ。胃が弱い私に空腹時のコーヒーは凶器にしかならない。なんとか誤魔化そうと彷徨わせた視線をガウェインさんに戻す。

「さっきも言ったが、目線」
「あ…」
「体調悪いのか?」
「実は私コーヒー飲むと胃が痛くなるんですが、後輩が間違って買ってきたので仕方なく飲んで、ですね…」

胃が痛いのと、こんな時になんで、という感情が汗となって溢れてくる。
一つため息をついたガウェインさんは私の背中に手を添えて立ち上がらせ、寝室まで案内してくれた。せっかく一緒にいられるのに寝るなんて、と伝えると「一緒に寝ればいいだろ」なんて言葉が返ってきて。男性と布団に入ることだって別に初めてじゃない。なのにガウェインさんと同じ布団にくるまると考えただけで顔が熱くなってふわふわした気分になるのだ。

「水持ってくるから寝転んどけ」

言われた通り真っ白なシーツの上に寝転ぶ。枕からも掛け布団からもガウェインさんの匂いがする。幸せで幸せで何度もくんくんとその香りを確かめるように嗅いでいた。

「…何してんだ」
「え、あ、そのっ! これは!」
「汗臭いだろ」
「いい匂いです!」
「なんだそれ、普通に変態じゃねえか」

だって、と反論しようとしたが匂いを嗅いでいた事実は覆らない。諦めて変態認定されておこう。

「水はまだいいか?」
「はい、ありがとうございます」

ベッドサイドにことり、と置かれたグラス。そしてガウェインさんの膝がベッドに小さく軋む音を立てて乗り上げた。
なぜか目を瞑ってしまって、閉じているのも変かなと思い今度は目を大きく見開く。

「痛むか?」

寝転び、こちらに近づきながら優しく問われる。大丈夫ですと紡いだ言葉は尻すぼみに消えていった。

「ん、腕」

首の下に差し入れられた逞しい腕から伝わる体温に溶けて消えてしまいそうな感覚に陥る。とろとろと溶け合うようなそんな感覚に思わず頬が緩んだ。

「少し寝れば治ると思います」
「わかった。なら1時間くらいしたら起こす」
「おねがいします」

未だどきどきとうるさく存在を誇示している心臓をなんとか悟られないように目を瞑った。
なんだか見られている気配がしてうっすら目を開けるとガウェインさんと目が合う。しばらく見つめ合っていると彼の顔が近づいてきて軽くちゅ、とキスをされた。恥ずかしくなって厚い胸板に顔を埋めると、おやすみのキスが欲しかったんじゃねえのか?と的外れな声が降ってきた。

「ちがいますっ…でも、嬉しかったです」
「ならよかった。ちゃんと寝ろよ」
「はい…」

突然の展開にまだ頭はついていかないが、今はこの胃の痛みをどうにかするしかない。彼の腕の中で眠れるチャンスでもあるのだ。ここは全て委ねて夢の中へ落ちてしまおう。そんなことが頭の中をふよふよと泳いでるうちに意識は眠りの世界へと引きずりこまれていた。

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