ep.7

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彼女の「ガウェインさんを落とします」の言葉は予想の中の一つだった。続けて発せられた「手伝ってくれるよね?」の問いかけには、なかなか返事を返せない。

「あやか?」
「…それは手伝えない」
「え…?」
「手伝えない! わたしもガウェインさんが好きだから」

がた、と椅子を鳴らして立ち上がり声を張る。周りの目線が一瞬だけこっちに集まって、散った。

「そう。なら敵ってことね」
「敵…」
「敵でしょ? あなたに負けるとは思わないけど。恋愛経験が違いすぎるし」

確かにそうだ。わたしが恋愛をちゃんと始めたのは大学に入ってから。彼女は昔から、それこそ小中の頃からずっと恋をしている。

「(だからなによ…)」
「もうプライベート用の番号もアドレスも教えてもらったし、負けることはないと思うけどね」

なに、それ?わたしが教えてもらったのは仕事用のアドレス。電話番号も知らない。ああ、この勝負、負けだ。

「まあせいぜい頑張れば?」

彼女の言葉も届かないくらい苦しくて辛かった。ピンクの鞄を持って先に出て行く背中を見つめて、涙すら出ない自分の弱さに呆れかえる。

「(好き、なのに)」

好きだけど一ヶ月前のあの日にアクションを起こさなかったのは自分だ。あの日好きだってことはバレたし、その上で彼は私に手を出そうとしてた。それが「都合のいい女」だったとしても、あの時に身を任せてたら今こんな風に辛い思いをしなくて済んだのに。
ふと店の外を見ると、あの子がガウェインさんと話していた。たまたま会ったのか、それとも会う予定だったのか。どっちにしろ私には関係のないことだ。
見たくなくて目をそらしたその時、スマホが震える。ガウェインさんからだった。

「(え? 今喋ってるのに?)」

急いで確認すると、

「(辛そうな顔してるけどなんかあったか? って…今目の前にいるその子となんかあったんですよ…)」

返事をするか迷って、やめた。そのまま仲良く消えて私のことなんか忘れてもらって構わない。テーブルに突っ伏してぐらぐらと不安な音を立てて揺れる心を必死に落ち着かせることしかできなかった。

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