あなたのシンデレラに

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彼氏の浮気に気づいたのは二週間前のこと。私が休日出勤をして、なんとか午前中で仕事を終わらせ帰宅している最中に見てしまったのだ。
はじめは見間違いだと思ったし、もう五年も付き合ってる彼がそんなことするはずもないと自分を落ち着かせたのだが、どうしても気になってしまい今日彼を呼び出した。

「遅くなってごめんね」
「ううん。こっちも呼び出してごめん」
「聞きたいことって?」

いつも通り彼は優しそうな笑みをたたえている。もしかして本当に浮気なんてしてないのかもしれない。でも、聞かずにいたら一生後悔すると思う。

「もしかしてさ、この子と浮気してる?」

浮気現場の写真を彼に突きつける。嘘だと言って、と心の中で3回唱えてから恐る恐る表情を伺った。
笑ってる。

「だからなに?」
「は?」
「お前が浮気されるような女だからだろ。仕事が忙しいとか言ってそっちこそ浮気してたんじゃないの?」
「してない…! そんなこと」

言おうとした言葉は涙に遮られた。

「そういうとこもうざったいんだよ。もういい加減一緒にいるのも疲れたわ。お前みたいな女と付き合わなきゃよかった。もう金輪際関わんないでくれる?」

そう吐き捨てて去っていく彼氏、いや、元彼に向かって履いていた赤いハイヒールを投げつける。

「サイテー男!!」

溢れ出る涙を何度も何度も手の甲で拭ってしゃくりあげる。
なんであんなやつと付き合ってたんだ、私はバカだ。

「傷心のお姫様?」
「!?」

突然声をかけられ慌てて顔を上げる。そこにいたのはガウェインさんで。

「ど、して…」
「シンデレラ、ガラスの靴の落し物だ」

もちろん彼が拾ってきたのはガラスの靴でもなんでもない、さっき私が元彼に投げつけた靴で。いつも履いてる靴は彼の手の中にあるととても小さく見える。そう、まるでシンデレラの靴のよう。
靴を取ってきてくれたのだから手渡すのかと思っていたら、すぐ近くのベンチに座るように促された。言われるがまま座ると、タイツだけになった足を優しく持ち上げつま先にキスを落とす。

「っ…よく素面でそんなことっ!」
「酔ってるさ。ずーっと前から、お前さんにな」

チョコレートのような甘い台詞に耳まで赤くなり、ウィスキーボンボンを食べた時のような刺激的な感覚が胸を満たす。

「さて、そんな顔じゃデートには行けないな」
「余計なお世話ですし、デートなんて予定、もう…」
「俺じゃ不満か、そうか」
「え、いや。そういうわけじゃ…」

振られてすぐに他の男に、なんてできないです、と声を振り絞って伝えると、優しい微笑みを向けられた。

「俺はあんまり回りくどいのとか得意じゃねえから」
「知ってます」
「だったら」

彼の手が私の後頭部に回る。キスをされると思うより先に唇が触れ合った。

「失恋した時が、等身大の恋をするチャンス、らしいぜ?」
「……私にガウェインさんは勿体無いです」
「それは分かんねえだろ」

もう一度重なる唇。この唇に、指に、腕に身を任せてしまいたい。

「がうぇい、さんっ…」
「辛い時は泣けばいい」
「う、うぁ…ひっぐ……うぅ」
「もうお前さんを傷つける男はいなくなった。あとここにいるのは、お前さんを幸せにしたいと思ってる男だけだ」

言葉を区切り、わたしを抱き上げる。

「俺じゃ不満か?」
「…う、っひぐ……そんなこと、ない、ですっ」

満足げに笑うガウェインさん。

「なら決まりだな! お前を守る騎士になってやる」
「ふふっ…なにそれ。でもなんだか、その台詞言われたの、初めてじゃない気がします」
「んー、てことは、お前を守ってたのは前世からかも知れねえな」
「かもしれませんね」

日が暮れた都会の街の明かりが二人の影を、重なり合う影を柔らかくうつしていた。


あとがき

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