彼はじい、っと見つめていた。ただその人だけを、穴があくくらいに見つめていた。視線の先には雷門さん。私がどうしたの、と聞くと、彼は首を傾げて「何が?」とだけ答える。「さっきから雷門さんの事見てるけど」そう言うと、名字君はああ、と気のない声をあげて頭をがしがしと掻く。揺れた髪から汗とシャンプーの匂いがした。 「どうもおかしいんだよね。」 「どうして?」 「雷門を見てると、どうも…頬が暖かくなるというか。」 確かに名字君は頬を赤くしていた。「ドキドキするというか」。続けて発した言葉は、私を苦笑させるには充分だったと思う。頭が良い筈の名字君は、しかしそういった方面にはとことん疎い。それはしっかりと、断言できる。だってそうじゃなきゃ(私のこの想いはとっくに気づかれている筈なのだから)。 「木野は、こういうことない?」 「私?…あるよ。」 「本当?どんな時に?」 あなたを見ているとき。とは、言えなかった。言いたくなかった。だって彼が、私が彼に向けている感情について知ってしまったとしたら、それはそのまま、名字君が雷門さんに抱く想いの答えとなってしまう。それだけはしたくなかった…そう思う私は、どこまでも、ずるいのだろうか。「教えない」そう呟いて微笑を浮かべると、彼はもやもやした心を抑えきれずに、む、と頬を膨らませた。年相応の反応にどこか違和感を感じた。 あなたが、私に向けられた感情に気づいてくれるまで、私はこの青空の下あなたの隣で祈りを続けよう。それが私に残された、唯一の悪足掻き。 例えばその感情の名を君に教えたとして (私があなたと結ばれる確率はとても低いのだという事実は信じたくなんてないの) |