「監督ー」後ろからぎゅむうと抱きしめると、監督はあまりに驚いたのか、ひゃあと普段の彼女からは想像できないであろうかわいい声をあげてびくりと体をふるわせた。かっわいい…。「な、何してるの名字君!」次の瞬間にはまたクールな監督に戻るけれど、心なしか声が上ずっているように思える。普段の冷めた彼女の素敵だけれど、こういう時たまみせる女の人らしいしぐさも素敵だ、と思える俺は、よっぽど彼女に心を奪われてしまっているらしい。まあ、当たり前だよね。 「何って…充電?」 「何の!」 「監督の癒しパワーをわけてください」 腕に力を込める。ああ柔らかい。自分とは違う感触にひたっていると、ごん、と頭をたたかれた。存外に怪力だ。 「彼氏に暴力ふるうなんてひどいじゃないスかー」 「…そっそんなこと大声で言わない!」 「…瞳子は俺のこと嫌い?」 わざと名前で呼んでみる。ひとみこ…良い響き。取り乱してた監督ははあ、とため息をつくと、抱きしめられたまま後ろを振り向かずに口を開く。「…嫌いじゃないけど」「えへへー、じゃあ名前で呼んでよ」「…馬鹿言ってないでさっさと練習に行きなさい」「けち」落ち着きを取り戻した監督から離れ、皆が練習をしているグラウンドへと歩を進める。 「じゃねー監督」 「…頑張りなさい、名前」 「…おう!」 なんだかうれしくなって、でも振り返ることはせずに頬を緩める。今日はどんな練習だってできる気がする!そう思う俺はひじょうに現金な人間だけれど、仕方がない。誰だって好きな人に頑張ってって言われたら頑張ろうって思えるじゃあないか。 充電完了! (見せつけんなよなー名字) (羨ましかったらお前も彼女作ればいいじゃねーか) |